アミロイドβなど除去の仕組み、ヒト大脳より未発達なマウスでの研究が進められてきた
金沢大学は12月2日、アルツハイマー病の原因物質などの不要な老廃物を脳から除去する新たな仕組みを世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大医薬保健学総合研究科医学専攻の亀谷匠郁、医薬保健研究域医学系/医薬保健研究域附属サピエンス進化医学研究センターの河﨑洋志教授、新学術創成研究科ナノ生命科学専攻の酒井伍希(研究当時)、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/医薬保健研究域附属サピエンス進化医学研究センターの奥田覚准教授、医薬保健研究域医学系の中田光俊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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ヒトの脳の中でも大脳は、高度な脳機能に重要であるだけでなく、脳神経疾患や精神疾患などさまざまな病気に関連することから、特に注目されている。大脳は、活動する際に栄養や酸素を消費し、それに伴い老廃物が発生する。そのため、この不要な老廃物を大脳から効率よく除去する必要がある。またアルツハイマー病では、大脳内にアミロイドβが蓄積することが原因と考えられており、このアミロイドβを大脳から除去することがアルツハイマー病の予防につながると考えられている。このように老廃物やアミロイドβを大脳から除去する仕組みの解明は、世界的にも重要な研究と考えられている。この除去する仕組みの研究は、これまでマウスを用いて行われてきた。しかし、研究でよく用いられるマウスの大脳はヒトの大脳に比べて小さく未発達である。例えば、ヒトの大脳は多くの皺で覆われているが、マウスの大脳は皺がない。
大脳に多くの皺を持つ高等哺乳動物フェレットで研究
そこで今回、研究グループは、大脳に多くの皺を持つ高等哺乳動物フェレットの大脳を用いて研究を進めた。過去のマウスを用いた研究の成果から、大脳の周囲にある脳脊髄液が大脳にしみ込み、老廃物を除去していると考えられていた。そこでフェレットの脳脊髄液に蛍光色素を注入し、脳脊髄液の流れを可視化した。
大脳の皺が老廃物除去の効率を著しく高める
その結果、大脳での皺の存在が、老廃物を除去する効率を著しく高めることがわかった。また、大脳の皺には突出と陥凹があるが、特に陥凹部分が除去効率を上げるために重要であることが明らかになった。そして、除去効率を上げるために必要な細胞や遺伝子も発見した。
以上より、老廃物やアミロイドβを効率よく除去するために大脳に皺が存在する、言い換えると、大脳の皺はアルツハイマー病の発症を抑えるために重要であるとも考えられると研究グループは指摘している。
アルツハイマー病発症機構の解明などに期待
これまでの老廃物の除去に関する研究は、主にマウスを用いて行われてきたが、マウスの大脳には皺が存在していないために、これまで見つかっていなかった可能性がある。大脳が発達したフェレットを用いた研究では、日本が世界をリードしており、そのアドバンテージを生かした独自の研究成果と言える。
今回、研究グループは、大脳から老廃物を除去するための新たな仕組みを発見した。「ヒトの大脳も皺で覆われていることから、この仕組みは、ヒトの大脳でも存在する可能性が高いと考えられる。除去効率の低下がアルツハイマー病の発症につながると考えられていることから、同研究の成果はアルツハイマー病の発症機構の解明や予防法の確立に発展することが期待される」と、研究グループは述べている。
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