誤嚥リスクが高い術後の食道がん患者、予防するには?
岡山大学は11月27日、手術前後の「ガム咀嚼トレーニング」が、食道がん術後の口腔機能低下や、発熱などの術後合併症予防に有用であることを世界で初めて確認したと発表した。この研究は、同大病院歯科・予防歯科部門の山中玲子助教、同大学術研究院医歯薬学域(歯)予防歯科学の江國大輔教授、消化管外科の野間和広講師、集中治療部の清水一好講師、新医療研究開発センターの三橋利晴助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
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食道がん手術は、術野が頸部、胸部、腹部と広範囲であり、消化管手術の中でも特に侵襲が大きく、誤嚥などの術後合併症リスクが高い手術である。手術以外にウイルス治療などの方法が開発されているが、手術は根治を目指す優先度の高い治療法の一つだ。術後は口腔機能が低下し、サルコペニア、フレイルが急激に進行する。近年では、内視鏡やロボットを使用した低侵襲手術が行われ、術後合併症の低減が図られているが、術後合併症の予防は重要な課題となっている。
これまで、歯科医師や歯科衛生士が行う専門的な口腔清掃を主体とする手術前の口腔管理が、術 後の感染予防などに有用であることが確認されてきた。今回の研究では、専門的な口腔清掃に加えて、患者自ら、楽しく、簡単に、安価に実践できる「ガム咀嚼トレーニング」が、口腔機能を向上させ、術後の合併症を予防する可能性が示された。
1日3回約5分間ガムを噛んだ群、対照群に比べ嚥下機能が有意に向上
研究では、食道がん手術の前後それぞれ約2週間ずつガム咀嚼トレーニングを行ったグループ(ガム群、n=25)(3回/日、約5分間)は、ガムを噛むトレーニングを行わなかったグループ(対照群、n=25)と比較した。
その結果、嚥下機能の評価指標の一つである舌圧が低下した患者の割合が76.0%から44.0%に有意に低下したことを確認した。また、ガム群では、術後の舌圧低下が予防されただけでなく、手術によるダメージがあっても舌圧が向上。さらに、ガム群では、術後の発熱期間が有意に減少した。ガム群では、対照群よりも嚥下機能が有意に向上し、有意差はなかったものの術後の誤嚥や肺炎が少ない傾向だった。反対に、ガムを噛むことによると考えられる合併症やデメリットは観察されなかった。
これらのことから、食道がん手術前後のガムを噛むトレーニングは、術後の嚥下機能の低下を安全に予防し、さらには嚥下機能を向上させて、術後の誤嚥、それに続く発熱、肺炎を予防する可能性があると考えられた。
口腔機能低下に悩む数多くの高齢者への応用も
食道がん手術は侵襲が大きく、術後は急速にフレイルが進行する。ガムを噛むトレーニングが、特に誤嚥リスクの高い術後の食道がん患者にとって安全で有効であったことから、誤嚥などの口腔機能低下に悩む数多くの高齢者への応用も可能と考えられる。
「患者からは、手術に対して不安がある中、ガムを噛んでいるときは不安が和らいでよかったとの感想もあった。楽しく、美味しく、安価で、誰にでも簡単にできるガムを噛むトレーニングは、ドミノ倒しのように進行するフレイル(フレイル・ドミノ)対策の一つとして、健康長寿社会の実現に少なからず役立つと期待できる」と、研究グループは述べている。
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