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協力行動の維持に「意見同調」が重要であることを数理モデルで確認-理研ほか

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2024年12月05日 AM09:10

評判に基づく協力行動における「意見同調」の重要性を検証

(理研)は11月27日、ヒト社会において協力行動を維持する仕組みである「間接互恵性」について、これまで行われてきた理論研究を一般化する理論を発表した。この研究は、理研計算科学研究センター離散事象シミュレーション研究チームの村瀬洋介研究員らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトが持つ最も際立った特徴の一つは「協力行動」と言われている。個々の力は弱くとも互いに助け合い、大きな集団で協力することによってヒトは生存競争を生き抜いてきた。社会性を持つ動物は多いが、ヒトは直接的な血縁関係を持たない多様な相手とも協力し合えるという点において傑出している。進化生物学において、このような非血縁者への協力行動を説明する重要な仕組みの一つに「間接互恵性」と呼ばれるものがある。

間接互恵性とは、評判を通じて協力を維持する仕組みを指す。例えば、AさんがBさんを助けたとする。その様子が社会に観測されていると、Aさんの利他的な行動が良い評判として社会に広まり、後に第三者であるCさんがAさんを助けてくれる行動につながる。つまり、Aさんの協力行動がCさんによって「間接」的に返報を受けることになる。このような社会では、Aさんはコストを払ってでも協力行動を取ることで長期的に利得を最大化することができ、協力行動が安定して維持されると考えられる。

間接互恵性を数学的に研究するために、これまでにさまざまな数理モデルが提案されてきた。これらは意見の同調の度合いによって、公的評価モデルと私的評価モデルの2つに大別される。公的評価モデルでは、ある人についての評判が社会全体で誤解なく共有されていると理想化したモデルだ。一方で、私的評価モデルは、より現実的な仮定をし、ある人についての意見が個々のプレイヤーにより異なることを許容する。私的評価モデルの中にもいくつかの亜種があり、大きく3つのクラス(単独観測モデル、同時観測モデル、意見共有モデル)に分類することができる。これらのモデルはそれぞれの研究グループで個別に研究され、結論が互いに相反することも多くあった。また、それぞれの研究結果の関連性が不明確であり、統一的な議論が欠如していた。そこで研究グループは今回、人々が持つ意見がどれくらい同調しているかという点のみに着目することで、より一般的な理解につながる可能性を探った。

一般的にどんな場合に間接互恵性による協力行動が安定して維持されるか解析

これまでの理論研究は大きく4つのタイプに分類できたことから、同研究ではこれら4つのクラスのモデルを特殊な場合として含む一般的な理論的枠組みを提案。それぞれの人々が意見をどのように更新するかという個々のモデルの詳細は仮定せず「人々が持つ意見が互いにどれくらい同調しているか」にのみ着目して問題を一般化。そして、この一般的な枠組みの中で、どのような場合に間接互恵性による協力行動が安定して維持されるかを解析した。その結果、興味深い洞察が3つ得られた。

意見に同調なしの場合「協力行動は進化的安定状態になり得ない」

まず、社会の人々に意見の同調がなく、各々の意見が統計的に独立している場合、協力行動が進化的安定状態になり得ないということが示された。これは、社会規範の複雑さや、評判が「良い・悪い」の2項対立か否かなど、モデルの詳細に依存しない普遍的な結果だ。

間接互恵性の安定性に「意見の同調」が重要

さらに、適切な社会規範の下では人々の意見の同調が強くなるにつれて、協力行動が進化的安定状態になるパラメーター領域がより広く現れることが判明した。これは、意見の同調が間接互恵性の安定性に対して重大な役割を果たしていることを示している。

個別モデルによる研究も、一般理論にあてはめて解釈することで理解が深まる可能性

最後に、この一般的な理論から、個別モデルの先行研究の結果を再現することもできることがわかった。これにより、研究結果をどのように相互に関連付けて解釈すれば良いかについての理論的見通しが得られた。

例えば、ある社会規範は公的評価モデルではとても有効である一方で、単独観測モデルや同時観測モデルでは全く機能しないということが知られていた。この顕著な差異がなぜ見られるのかについて、意見の同調性の強弱といった「意見の相関」の視点から理解することができる。

より適切に評判や意見が共有される社会の構築への寄与に期待

今回の研究成果は協力行動に関するさらなる理論研究のためのマイルストーンとして重要であるだけでなく、ヒトを対象とした行動実験や調査研究の重要な指針となることが予想される。ヒトは自分の意見を周りの意見に同調させる心理的傾向を持っている。そのような同調性は、現代の情報化社会における意見形成や、それに伴う意見の先鋭化や社会の分断といった現代的課題にも密接に関連している。同研究は、そのような心理的傾向の進化的起源の解明につながる可能性がある。

「長期的には間接互恵性の研究の進展が、これらの深刻な課題を解決し、より適切に評判や意見が共有される社会の構築に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。

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