民間中小規模事業所における健診後の医療機関受診率は?
琉球大学11月29日、健康診断で新規に高血圧を見出された人がその後に医療機関を受診するかどうかについて、全国健康保険協会(協会けんぽ)沖縄支部が所管する民間中小規模事業所およびその従業員(35~59歳)の2019年度データを解析した結果、全体では1か月後の受診率は2.72%、6か月後が7.50%であったことがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の中村幸志教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Hypertension Research」オンライン版に掲載されている。
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日本の死亡原因や要介護状態原因の上位を占める循環器系疾患(心疾患、脳卒中)を予防する第一義的な策は、集団アプローチによって国民全体に適切な生活習慣励行を図ることである。次善の策は、地域や職域の健康診断にて高血圧などの危険因子を有するハイリスク者を検出し、医療的管理につなげることだ。特に職域は労働安全衛生法に基づく従業員への定期的な健康診断と絡めて、若・中年層の健康増進と疾患予防を推し進めるのに適した場といえる。大規模事業所では産業医や保健師などのフルタイムの健康管理担当者が従業員に保健指導や受診勧奨を行うことで、従業員が健康診断後に医療機関を受診しやすくなるとの報告がある。しかし、日本の全民間事業所の99.7%を占めて全従業員の68.5%を雇用する民間中小規模事業所における健康管理体制の実態、健康診断後の医療機関受診率についてはわかっていない。
35~59歳の従業員のデータを解析し高血圧に着目
今回研究グループは、協会けんぽ沖縄支部から委託され、沖縄支部が所管する民間中小規模事業所およびその従業員(35~59歳)の2019年度の基礎登録、健康診断、診療情報明細書および事業所の健康管理体制などの調査結果を突合させたデータを解析した。その中でも、健康診断において所見がある割合が高く、循環器系疾患の主要な危険因子である高血圧に注目した。
健診後翌1か月末までの受診は2.72%、健康管理担当者の有無により受診率に差
前年度の健康診断にて高血圧がなく、対象年度の健康診断にて新規に高血圧を見出された2,906人において、健康診断の翌1~6か月の各月末までの医療機関受診率は、翌1か月末までで2.72%、翌2か月末までで4.03%、翌6か月末まででも7.50%だった。
県内の民間中小規模事業所のうち、健康管理担当者(保健医療系資格の有無を問わない)を有する事業所での新規高血圧者の健康診断の翌1か月末までの医療機関受診率は2.97%、有しない事業所では2.00%だった。
健康管理担当者を有する事業所での新規高血圧者の健康診断の翌1か月末までの受診に関して交絡因子を調整したオッズ比は1.74(95%信頼区間0.94–3.22)だった。保健医療系資格のない健康管理担当者でも同様の傾向だった。受診の追跡期間の延長に伴い受診率は漸増するものの、健康管理担当者有無間の受診率の差は漸減した。
「受診控え」がありうるごく軽度の高血圧を除外した収縮期/拡張期血圧≧150/95mmHgという高血圧では、健康管理担当者を有する事業所での新規高血圧者の健康診断の翌1か月末まで受診率は4.97%、有しない事業所では2.29%だった。健康管理担当者を有する事業所での新規高血圧者の健康診断の翌1か月末までの受診に関する調整オッズ比は3.05(95%信頼区間1.12–8.29)だった。
有資格者に限定せずに健康管理担当者を配置することが現実的な戦略
今回の研究は、数少ない既報よりも新規高血圧者を厳密に設定する精緻なデザインのもとで健康診断後の高血圧に関する受診率を調べ、初めて中小規模事業所における健康管理担当者の有無間で受診率を比較した報告となった。
「沖縄県の働き盛り世代の循環器系疾患予防のための課題および職域における改善策を示唆しうる成果といえる。人的資源が限られている中小規模事業所では、産業医や保健師などの有資格者に限定せずに健康管理担当者を配置することが健康診断から医療的管理への移行を促進させる現実的かつ効果的な戦略といえるだろう。そのためには、個々の事業所における努力のみならず、保健医療に関わる諸機関による健康管理担当者に対する継続的な教育やトレーニングなどの支援も望まれる」と、研究グループは述べている。
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