末期腎不全への移行リスクが高いAKI、糸球体のポドサイトATP変動に着目
京都大学は11月25日、慢性腎臓病や末期腎不全へ移行するリスクがあり、近年発症数が増加している急性腎障害(AKI)について、虚血性AKIモデルにおけるポドサイトのATP濃度の低下とそれに伴うミトコンドリア障害がポドサイトのバリア機能を担う「足突起」の構造異常に関与している可能性を見出したと発表した。この研究は、同大医学研究科腎臓内科学の柳田素子教授(兼:高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者)、医学部附属病院腎臓内科学の高橋昌宏医員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
急性腎障害(AKI)はかつて、「治る病気」と考えられていたが、慢性腎臓病や末期腎不全への移行リスクが高いことがわかり、病態解明や治療法の開発が進められてきた。腎臓の機能は尿の濾過生成を担う「糸球体」と尿の濃縮や調整を行う尿細管に大別されるが、AKIの中でも頻度が高い虚血性AKIは主に尿細管障害が中心とされており、糸球体に対する影響は十分解明されていなかった。
研究グループはこれまでに、細胞内アデノシン三リン酸(ATP)濃度を可視化するFRETバイオセンサーを全身発現させたマウスの腎臓を二光子顕微鏡で観察することで、生体腎のATP濃度をリアルタイムに解析する手法を確立した。ATPは細胞の「エネルギー通貨」とも呼ばれ、糸球体のポドサイトにおいては尿の濾過に重要な足突起の形態維持に必須とされている。臨床的にも、ATP産生を担うミトコンドリアの遺伝子異常がネフローゼ症候群の原因になることや、虚血との関連が深いAKI後や腎移植後にタンパク尿が増加することが報告されている。研究グループは、虚血性AKIにおいてポドサイトのATP異常が生じた結果、ポドサイト障害が生じているのではないかと考え、ATP変動の解析という観点から虚血後のポドサイト障害について解明することにした。
虚血再灌流障害マウス、ポドサイトのATP回復不良が慢性期の足突起癒合と相関
研究グループはまず、野生型マウスに虚血再灌流障害を惹起し、障害慢性期にポドサイトの足突起癒合とアルブミン尿の増加が認められることを確認した。そこで、虚血再灌流超急性期のポドサイトのATP変化を観察すると、近位尿細管(ATP産生をミトコンドリアに依存)よりも緩やかにATPが低下したため、ポドサイトではミトコンドリアのみならず解糖系によってもATP産生を行っていることが示唆された。その一方で、虚血時間が伸びるにつれて再灌流後のポドサイトのミトコンドリアが断片化しATP回復も悪化することがわかった。次に、障害慢性期の電顕像を確認すると、ミトコンドリア断片化が強く残っている個体ほどポドサイトの足突起癒合が強く、さらには虚血再灌流障害超急性期にポドサイトのATP回復が悪かった個体ほど慢性期のミトコンドリア断片化と足突起癒合が強いことがわかった。
DRP1阻害薬、ATP低下ストレス下培養ポドサイトと虚血再灌流マウスの障害を改善
ATP低下、ミトコンドリア障害、足突起癒合の因果関係を明らかにするために、虚血再灌流障害を培養液中で再現する実験を行った。ATP低下ストレスにさらされた培養ポドサイトではミトコンドリア断片化と細胞骨格の異常が生じたが、ミトコンドリア分裂因子であるDRP1の阻害薬を加えたり、DRP1をsiRNAでノックダウンするとミトコンドリア断片化が軽減するとともにポドサイトの細胞骨格の異常も軽減した。さらには、DRP1阻害薬を虚血再灌流障害後の野生型マウスに投与すると障害慢性期の足突起癒合が改善することも確認した。以上の結果から、虚血再灌流後のポドサイトの足突起癒合には虚血再灌流障害超急性期のATP低下とミトコンドリア断片化、そしてその後のATP回復不良が関与していること、ミトコンドリア分裂因子のDRP1を抑えることでこれらの障害が軽減する可能性があることが示唆された。
今回、虚血性AKIの実験モデルにおいてATP動態とポドサイト障害の関連について検討を行ったが、ポドサイト障害が尿細管障害や腎臓全体の障害にどのように寄与しているのかということは今後解明すべき重要な課題と言える。「本研究ではマウスにDRP1阻害薬を投与し虚血後ポドサイト障害の改善を確認したが、より腎臓やポドサイトに特異的に作用する治療法や薬剤の開発も、今後のAKIの治療法開発に関連して重要になると思われる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学 最新の研究成果を知る