急性増悪の発症リスク評価は未確立、血清sRAGEの関連は不明だった
広島大学は11月21日、特発性肺線維症において急激な症状の悪化を予測するバイオマーカーを発見したと発表した。この研究は、同大病院呼吸器内科 北台英里佳氏(大学院生)、山口覚博助教、大下慎一郎准教授、岩本博志准教授、服部登教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Respiratory Research」にオンライン掲載されている。
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特発性肺線維症は原因不明の進行性かつ不可逆的な肺の線維化を起こす疾患だ。これを背景に発症する急性肺障害を「特発性肺線維症の急性増悪」と言い、患者の死因の約40%を占める。しかし急性増悪の発症機序は明らかではなく、その発症リスクを評価するための方法は確立されていない。
Receptor for Advanced Glycation End product(RAGE)は、肺に高発現する膜受容体であり、過剰なRAGEシグナルは炎症性シグナル伝達を促進し、肺障害を悪化させることが知られている。RAGEシグナルは可溶性アイソフォーム(sRAGE)とRAGE SNP rs2070600により調整されている。これまでに白人および日本人の特発性肺線維症患者において、血中sRAGE低値とRAGE SNP rs2070600のマイナーアレルの存在はそれぞれ特発性肺線維症の生存率低下および疾患への罹患リスク増加と関連していることが示されている。しかし、sRAGE値およびマイナーアレルが特発性肺線維症の急性増悪と関連しているか否かは不明だった。
日本/ドイツ人患者でsRAGE値が特発性肺線維症の急性増悪と有意に関連
研究グループは今回、特発性肺線維症患者171人(ドイツ人69人、日本人102人)を対象に、血清sRAGEが急性増悪の発症に関与しているか検討した。
その結果、患者全体および人種別でsRAGE値低値が急性増悪の発症率の上昇と有意に関連していることが示された。この関連性はドイツ人患者でも日本人患者でも再現性をもって確認でき、異なる人種の患者で急性増悪発症にかかわる血液バイオマーカーの再現性を示した初めての報告となった。
sRAGE値高値/マイナーアレルを有する患者で急性増悪の発症率「低」
さらに、DNA検体を有する患者135人(ドイツ人51人、日本人84人)を対象にRAGE SNP rs2070600のマイナーアレルと急性増悪の発症の関連性を検討したところ、このSNPをsRAGEと組み合わせることで急性増悪の発症を層別化可能であり、sRAGE値高値かつマイナーアレルを有する特発性肺線維症患者で急性増悪の発症率が最も低いことも示された。
sRAGE値+SNPで、特発性肺線維症の急性増悪リスクを層別化できる可能性
特発性肺線維症の急性増悪は患者の主要な死因の一つだが、発症機序は現時点では不明だ。「RAGEを標的とした病態や発症機序の解明だけでなく、sRAGE・RAGE SNPを用いた急性増悪のハイリスク群の選別および早期に治療を導入すべき対象の選別につなげていけるよう研究を進めていく予定だ」と、研究グループは述べている。
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