グリベンクラミドの広汎脳梗塞における脳浮腫抑制効果、大規模試験で検証
国立循環器病研究センターは11月21日、糖尿病治療薬glipalamide(グリベンクラミド)の重症脳梗塞治療への有効性を検討した国際無作為化比較試験The Glibenclamide for Large Hemispheric Infarction Analyzing mRs and Mortality (CHARM)の主解析結果を発表した。この研究は、同研究センターの豊田一則副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Neurology」オンライン版に掲載されている。
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広汎脳梗塞は脳浮腫を伴い、頭蓋内圧上昇や脳ヘルニアを引き起こして死亡や高度障害の原因となる。このような広汎梗塞に対して、主に救命目的に開頭手術を行うことはあるが、浮腫を軽減できる薬物治療は限られている。
神経細胞などに存在するスルフォニルウレア1-一過性受容体電位メラスタチン4と呼ばれるイオンチャネルが開口すると、脳梗塞後の細胞傷害性浮腫や血液脳関門破綻に関与する。半世紀以上にわたって、脳梗塞の経口治療薬として用いられているグリベンクラミドを静注で投与することによって、このイオンチャネルが阻害され、浮腫を抑制することが動物実験で示された。また、少数例の脳梗塞患者への臨床試験GAMES-RPにおいても、広汎脳梗塞患者にグリベンクラミドを静注投与することの安全性が示された。そこで今回の研究では、多数例でグリベンクラミドの治療効果を明らかにするため、CHARM試験を実施した。
日本含む世界21か国で広汎脳梗塞へのグリベンクラミド/偽薬投与の比較試験CHARM実施
CHARM(ClinicalTrials.gov NCT02864953)は、日本を含む世界21か国143施設が参加した、第3相、二重盲検、無作為化、実薬-偽薬比較試験。18~85歳までの発症から10時間以内に試験薬投与が可能な、広汎脳梗塞患者が組み入れられた。「広汎梗塞」の基準として、実測で80~300mLか、あるいはASPECTSと呼ばれる早期虚血を半定量的に計測する10点満点の尺度(点数が低いほど傷害範囲が広い)で1~5かのいずれかを満たす場合とした。患者は無作為に、グリベンクラミド(総量8.6mg)と偽薬のどちらかを72時間かけて静注投与するよう、1:1に振り分けられた。
対象患者のうち70歳以下が688人に達することを目標に、2018年8月より登録を開始したが、COVID-19蔓延による登録遅延などを理由とした支援企業の判断によって、2023年5月の535人登録時点で、新規登録を中止した。今回の研究では、70歳以下の患者431人(グリベンクラミド群217人、偽薬群214人)に対象を絞って治療の有効性を評価した。性別は女性が32%/34%(それぞれグリベンクラミド群/偽薬群)、平均年齢58.0歳/58.7歳、アジア人20%/21%、神経学的重症度(42点満点で点が高いほど重症な尺度であるNIH脳卒中スケールの中央値)19/19、静注血栓溶解療法施行率38%/39%、経皮的血栓回収療法施行率19%/19%であった。
主解析では、グリベンクラミド治療効果を示せず
修正ランキンスケール(0~6の7段階の尺度で点が高いほど障害度が高く、6は死亡を示す)を用いた90日後の自立度について、同スケールの分布は、両群間で有意差がなかった(オッズ比1.17、95%信頼区間0.80-1.71)。安全性に関して、何らかの重篤有害事象がグリベンクラミド群の77%、偽薬群の68%に生じた。このうち低血糖は各々6%と2%だった。
125mL以下梗塞を有する患者では治療効果ありの傾向、今後の研究進展に期待
登録患者の条件をさらに絞って解析を行ったところ、125mL以下の梗塞を有する患者においては、グリベンクラミド群の修正ランキンスケールの分布が、より自立患者が多い傾向を示した。
今回の研究の主たる結果からは、広汎脳梗塞へのグリベンクラミドによる治療効果は証明できなかった。また、古典的糖尿病治療薬の宿命的な副作用である低血糖が、偽薬群に比べてやや目立った。これらは決して有望な結果とは言えないとしている。ただし、125mL以下の脳梗塞患者に良い傾向を認めたことは、臨床的に意義深いと思われる。同院脳血管内科の井上学特任部長らの先行研究により、脳梗塞の劇的な後遺症改善効果が期待できる血栓回収療法が有効な患者は、128mLくらいまでの梗塞サイズの患者と考えられている。例えば、このような患者に血栓回収療法とグリベンクラミド投与を併用したらどうなるかなど、今後の研究の進展が期待される、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース