知的能力障害に関係するWDR45遺伝子、変異をもつ患者の頻度や詳細な症状を調査
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は11月20日、知的能力障害の診断を受けた女性患者の遺伝子解析を行い、X染色体上にあるWDR45遺伝子の変異が主要な原因の1つであることを見出したと発表した。この研究は、NCNPメディカル・ゲノムセンターの後藤雄一特任研究部長、井上健室長、阿部ちひろ研究員、国立国際医療研究センター(NCGM)ゲノム医科学プロジェクトの徳永勝士プロジェクト長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medical Genetics」に掲載されている。
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知的能力障害は、全般的知能(論理的に考えて問題を解決したり計画を立てたり、経験から学び取ることなど)や、生活へ適応する力が幼少期から障害されている発達障害で、全世界で約1~3%の有病率とされている。多くの場合、その原因は遺伝的な要因と環境的な要因が組み合わさることによるが、全部で2万種類以上あるヒトの遺伝子のうちたった1つの遺伝子の変異が原因となることもある。これまで女性ではMECP2、男性ではFMR1などが頻度の高い原因遺伝子として知られている。
WDR45遺伝子は知的能力障害に関係する遺伝子の1つで、その変異は、成人になってからの運動や認知機能の急激な衰え(退行)と脳内への鉄沈着を特徴とする病気(NBIA5)をもたらす。その多くは女性の患者である。一方で、幼少時には特徴的な症状や検査の所見がないことから、臨床的に早期に診断することは容易ではなかった。しかし遺伝子解析によって早期に診断することで、将来起こりうる症状の予測がつくなど医療やケアに有用な情報が得られる。今回の研究では、すでに知られている主要な遺伝子群(MECP2や微小欠失/重複)に異常がないことがわかっている32例の女性の知的能力障害の患者について、どのくらいの頻度でWDR45遺伝子の変異をもつ患者が含まれるか、また変異をもつ患者の症状の特徴について調べた。
原因遺伝子不明の女性患者のうち、12%にWDR45遺伝子変異を確認
サンガー法を用いて、32例の患者のDNAにWDR45遺伝子の変異がないか調べたところ、うち2例(6.3%)で病気の原因となりうる変異を見出した。研究グループの先行研究の結果を含めると、WDR45遺伝子に変異がある患者は51例中6例(12%)だった。これは、知的能力障害に関連する遺伝子が1,500以上あることをふまえると、とても高い頻度と言える。
新たに報告されたWDR45遺伝子変異例、知的能力障害が非常に重度
今回見つかった2例のうち1例は今までに報告がない変異で、他の患者の症状と比べると知的能力障害の程度が非常に重度だった。この患者のMRI画像では、WDR45遺伝子変異例で特徴的な脳内への鉄沈着が確認された。
重度の理由、他の遺伝子変異の存在やX染色体不活化の偏りではないと判明
研究グループは、この患者の症状が重度である理由について、2つの仮説を立てた。1つは、WDR45以外にも知的能力障害の原因となる遺伝子変異があるかもしれない、という仮説である。そこで、ナショナルセンターバイオバンクネットワークで行った全ゲノム解析の結果を用いて他の遺伝子の変異も調べたが、WDR45以外に知的能力障害の原因となりうる変異は見つからなかった。
そこで、2つ目の仮説として、WDR45遺伝子が存在する、X染色体の不活化に注目した。女性は2本のX染色体をもつが、変異があるWDR45遺伝子が存在するX染色体と比べて、もう一方の正常なX染色体がより多くの細胞で不活化されてしまっているとすれば、症状が重度である説明がつくと考えたためである。2本のX染色体の不活化に偏りがあるかどうか、既存の方法では判断できなかったため、メチル化特異的PCRを用いた独自の方法を開発し、解析を行った。
その結果、予想に反して、2本の染色体がどちらも活性化・不活化されているランダムパターンであると推測された。この結果からは、2つ目の仮説も否定され、症状の重症度はX染色体の不活化では説明がつかないことが示された。
今回の研究では、小児期発症の知的能力障害の女性患者の原因として、WDR45遺伝子は頻度が高く、重要な遺伝子であることが明らかになった。WDR45遺伝子の変異をもつ患者の重症度には幅があるが、X染色体の不活化だけではこの幅の説明がつかず、ほかの要因が複雑に組み合わさっていることが推測される。「今後、症状の幅をもたらすような要因の解明が望まれる」と、研究グループは述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース