自殺について、生活習慣や文化の異なる国・地域間で比較
東京大学は11月22日、世界26か国のデータを解析し、曜日や休日により自殺リスクが変動することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科のキム・ユンヒ准教授と橋爪真弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Medical Journal」に掲載されている。
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毎年、世界中で何百万人もの人々が自殺によって亡くなっている。世界保健機関によると2019年には世界で70万人以上が自殺で命を落とし、15~29歳の若者の死因の第4位となっている。自殺の理由は個人的要因から社会的要因まで多岐にわたることが知られているが、特定の時間的変動があることも古くから知られている。しかし、これまで自殺という非常に敏感なテーマに関する研究は、欧米をはじめ国ごとの研究が中心だった。
そこで研究グループは今回、生活習慣や文化の異なる国・地域間で一貫したデータ解析手法を用いて、比較研究を行った。
月曜と元日はほとんどの国で自殺リスク「高」、クリスマスは地域差あり
まず、自殺リスクがどのように変動するかを調査。その結果、自殺リスクは曜日や休日によって変動し、世界的に特定の日に自殺リスクが高まることが判明した。世界26か国740地域のデータ(1971~2019年)をもとに調べたところ、月曜日と元日はほとんどの国で自殺リスクが高いことがわかった。これは新たな週の始まりに伴うストレスの増加によるものと考えられるという。
一方、クリスマスの自殺リスクはそれほど顕著ではなく、地域によって異なる傾向があった。また、元日とクリスマス以外の休日は、総じて自殺リスクが低いことが明らかになった。
週末の自殺リスクは中南米・フィンランド・南アフリカで「高」
さらに、多くの北米・アジア・ヨーロッパの国々では週末の自殺リスクが低かったのに対し、中南米・フィンランド・南アフリカではリスクが増加していることが判明。これは異なる週末の飲酒文化に関連している可能性も考えられるが、宗教や労働条件など他の要因の影響の可能性もあり、さらなる研究が必要だとしている。
自殺リスクの高い人だけでなく精神保健関連業務の従事者も自殺リスクの認識が必要
今回の発見によって国際的な視点での新しいエビデンスが提供されたが、因果関係を示すには制限のある観察研究であることから、研究グループは臨床的側面を含む詳細な研究が行われることで、結果が検証されることを望んでいる。また、同研究では一部の国・地域を対象としているため、より普遍的な解釈をするためにはさらに多くの地域で同様の研究を行う必要がある。しかし、同成果は自殺研究および関連する公衆衛生政策において、重要な意味があると考えられる。
「特定の曜日や休日と関連する自殺リスクを認識することで、自殺リスクの高い脆弱な人々だけでなく、精神保健サービス関連業務の従事者も、予防行動を取ったりタイムリーなサポートを提供するなど、細心の注意を払うことが重要だ」と、研究グループは述べている。
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