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全身麻酔深度、精度の高い測定につながる脳波信号解析法を開発-京都府医大ほか

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2024年11月27日 AM09:10

全身麻酔の深度評価、ウェーブレット変換ベースのモード分解法に着目

京都府立医科大学は11月19日、新しい機械学習アルゴリズムによって、全身麻酔中の脳波解析における麻酔深度の測定につながる新技術の開発を行ったと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科麻酔科学の矢持祥子助教、山田知見助教、須藤和樹助教、木下真央助教、附属病院の佐和貞治病院長、淀川キリスト教病院麻酔科の小畑友里江部長、近畿大学医学部麻酔科学講座の秋山浩一講師(現 名古屋大学大学院医学研究科麻酔・蘇生医学講座教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「PeerJ」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

生体信号の周波数特性を把握する場合、計測データに対してスペクトル解析を行うことが一般的である。スペクトル解析では通常、三角関数を基底とするフーリエ解析が用いられるが、フーリエ解析ではデータの定常性・周期性を前提としているため、非定常性の強いデータを扱う場合、周波数特性を正確に理解することが困難な場合がある。このような非定常性の強いデータの周波数特性を把握する場合、短時間フーリエ解析やウェーブレット解析などの時間周波数解析がこれまでは有効とされてきたが、これらの方法にも欠点がある。

そこで近年、新しい方法として生体信号などを多次元時系列データとして捉え、その中に潜む特徴的な単位成分であるモードを取り出す「モード分解法」が研究されている。モード分解は現象の本質的な理解、簡易な推定構築などに活用できることから、近年さまざまな分野における信号解析法として注目されている。(以下、EEG)のように非線形的で非定常的な信号における周波数成分の解析にも高い適応性が期待されている。モード分解では、特徴的な成分は固有モード関数(Intrinsic ModeFunction、以下、IMF)として取り出され、取り出されたすべてのモード関数を合計すれば 元の信号に戻ることが条件である。経験的モード分解法(Empirical Mode Decomposition、以下、EMD)は、Hilbert変換と組み合わせてHilbert-Huang変換法(Hilbert-Huang Transform)として1998年に報告された。他にも制約付き数理最適化理論に基づく解法の1つである変分的モード分解法(Variational Mode Decomposition、以下、VMD)が報告されている。

今回の研究では、新たに経験的ウェーブレット変換(以下、EWT)およびウェーブレットモード分解(以下、WMD)と呼ばれている2つのウェーブレット変換ベースのモード分解法を解析方法に組み込み、セボフルラン麻酔における麻酔維持から覚醒に至るまでのEEGのデータセットを用いて、全身麻酔の覚醒反応に対する特徴抽出モデルの適合性と機械学習による全身麻酔の深度評価について解析した。

EWT、信号を周波数の特徴ごとに分解し解析するウェーブレット変換

EWTは2013年にJerome Gillesによって発表された新しいウェーブレット変換であり、与えられた信号を異なるモードに分解するための適応ウェーブレットフィルターバンクを明示的に構築して利用する。開発者のGillesは、Littlewood-PaleyとMeyerのウェーブレットの両方の構築に使用されたアイデアを利用し、強力な数学的背景に支えられた適応アルゴリズムで、処理された信号に適応したウェーブレットのファミリーを構築する方法を用いた。フーリエの観点からは、この構成は一連のバンドパスフィルターを構築することに相当している。

EWTもEMDと同様に、信号からIMFを抽出することを目的としているが、時間空間で機能するEMDとは異なり周波数空間で機能する。フーリエ周波数[0、π]がN個の連続するセグメントに分割されていると仮定すると、0とπを除いてN-1個の境界を抽出する必要がある。境界を見つけるために、スペクトル内の局所的な最大値が検出され、降順で並べ替えられ、境界は連続する最大値間の平均として定義される。

WMDが全身麻酔段階に関係なく狭い帯域で各IMFの周波数ヒストグラムを一貫して表示

患者(27歳の女性、卵巣腫瘍、腹腔鏡下卵巣摘出術)から取得したセボフルラン麻酔下のEEGデータを用い行ったVMD、EWTおよびWMDの解析では、以前に報告されたVMDとの比較分析のため、全身麻酔の3段階(覚醒前30分の維持期、覚醒前1分の移行期、覚醒期)において128Hzで記録された4秒間のEEGエポックを分析した。全身麻酔の段階を通じて、EEG(4秒)、3つの分解方法によって得られたIMF(4秒)および密度スペクトル配列(DSA)(64秒、EEGデータの4秒間のセグメントから開始)を示した。

次に、波形図のみではIMFの特性の違いを視覚的に識別するのが難しいため、ヒルベルト変換を適用、瞬時周波数(IF)と瞬時振幅(IA)の両方を導出し、その結果をヒルベルトスペクトラムとして示した。麻酔維持期には、VMDではIMF-1から4までが主に20Hz以下の周波数領域に位置していた。対照的に、EWTおよびWMDでは、6つのIMFが0Hzから50~60Hzまでのより広い周波数範囲に渡っている。移行期には、VMDではIMF-6が顕著に30Hz周波数にシフトしたが、EWTでのIMF-5とIMF-6のピークは40Hz以上の高い周波数に移動した。覚醒時には、EWTでのIMF-5およびIMF-6のピークが50Hz以上の周波数に増加したが、VMDの結果では40Hz以下に留まった。WMDは、考慮された全身麻酔の段階に関係なく、事前に定義された標的周波数に対応する狭い帯域で各IMFの周波数ヒストグラムを一貫して表示する。この違いは、EWTとVMDがIMFの分解に周波数帯の制約を課さない事に対し、WMDが指定された周波数帯内でのIMFへの分解を要求するために生じる。

患者10人のEEGデータ、WMDベースのMLRモデルで最も強い相関示す

次に、覚醒前30分にセボフルラン全身麻酔を受けた10人の患者から取得した処理されたEEGデータを分析した。全身麻酔の深度を示す臨床指標であるBIS値と、ヒルベルトスペクトルの平均である中心周波数(freq)およびトータルパワーTPを含むIMFパラメータとの関連を多重直線回帰(MLR)モデルで検討した。このモデルではfreqとIMFのTPを変数として組み込み、VMD、EWTおよびWMDの3つのモード分解方法を使用しテストした。包括的なMLR式には、6つのIMFのfreqとTPの個別の項が含まれ、36の説明変数を持つモデルになる。

この分析は、36のパラメータ(18のfreqと18のTP)を使用するWMDベースのMLRモデルで最も強い相関(R2=0.899)と最低の誤差(平均絶対誤差:MAE=0.244、平均二乗誤差:RMSE=0.318)を示し、4つのモデルの中で最も良い結果を得た。よりターゲットを絞ったアプローチとして、p値が0.05未満で有意である7つのIMFパラメータ(IMF-1_freq、IMF-3_freq、IMF5_freq、IMF-6_freq、IMF-2_TP、IMF-4_TP、IMF6_TP)のみを使用したMLRモデルを評価したが、当該評価においても、優れたフィット指標(R2=0.897、MAE=0.244、RMSE=0.321)を示した。特に、WMDアプローチでは、IMF-1、IMF-3、IMF-5、IMF-6のfreqと、IMF-2、IMF-4、IMF-6のTPが重要な予測因子として特定された。この知見は、WMDがGAからの覚醒中にBIS値に起こる変化と相関するIMFパラメータの狭帯域の変化を効果的に捉えており、全身麻酔の深度の変化を監視するためのWMDの優れた感度を示した。

WMD用いた解析法、麻酔深度の評価精度を向上させる可能性

この研究では、全身麻酔の維持から覚醒までの30分間に発生するEEG周波数特性の変化を、3つのモード分解方法(VMD、EWT、WMD)を通じて調査した。VMDおよびEWTは、freqとTP特性に変動があり、麻酔の深さの評価にはあまり信頼性がなかった。一方、WMDは各解析エポックを通じて安定したfreqとTPを維持し、麻酔維持から覚醒までの10分間のBIS値と強く相関した。WMDによって分解されたIMFは、全身麻酔の深度を示す指標として機能するパターンを示し、MLRによって麻酔深度の評価に関連する特定のIMFのfreqとTP特性の有意な変化を明らかにした。麻酔から覚醒への移行中に発生したEEG周波数の変化を捉える点で、WMDは他の方法よりも優れていた。

今回の研究は、意識の喪失と回復の両方の間に発生する任意のEEG変化を分析する重要性を強調し、特に完全な意識と無意識の間の中間状態において、麻酔の深さの信頼性のある数値指標を確立することを示した。得られた結果は、異なる患者間で一貫したWMD由来のIMFを示し、麻酔からの覚醒中にBIS値の変化を効果的に追跡した。臨床的には市販モニタによるBIS値やPSi値などが利用されているが、算定アルゴリズムが公開されていないため、科学的な議論を深めることやさまざまな麻酔法や患者の年齢特性などに合わせた精度の亢進などが停滞している。「研究成果から、WMDが捉える微妙なEEG周波数特性に基づいた全身麻酔の深度評価を洗練させることにより、麻酔監視の精度を向上させ、麻酔科医にとってより信頼性の高い監視ツールを提供する可能性があることを示すことができた」と、研究グループは述べている。

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