ヘビのどんな特徴に対し脅威を感じるのか、ヘビを知らないサルで研究
名古屋大学は11月18日、ヘビを脅威と感じるのはウロコのせいであることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院情報学研究科の川合伸幸教授によるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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WHOによれば、ヘビに噛まれたことが原因で毎年8.1~13.8万人が死亡している。ヒトと寄生虫を除けば、最も多くのヒトの命を奪う生物がヘビであることから、ヘビは一番怖い対象として挙げられる。
これまでの研究で、本物のヘビを見たことのないサルがヘビの写真をほかの動物よりも早く見つけることや、生後6~11か月の赤ちゃんでもヘビの写真に顕著な脳波を示すことが報告されている。ヘビは、霊長類の祖先が地上に出現したときの唯一の捕食者で、それ以降も霊長類や人間の捕食者であり続けた。そのため、ヒトやサルはヘビに対して敏感に反応する生得的なシステムを進化させたと考えられており、これまでのサルや幼児・成人を対象とした実験は、それを裏付けている。
しかし、ヘビのどのような特徴に対して敏感に反応する(脅威を感じる)のかは不明だった。いくつかの研究はヘビのウロコを手がかりにしていることを示唆していた。しかし、それらは統制の取れていない野生のサルを対象にした野外研究や、すでにヘビについて知識のある成人を対象とした実験であり、ヘビを知らないサルを用いた統制の取れた実験は行われていなかった。
ヘビやイモリを知らないサルが、イモリよりヘビを早く見つけることを確認
そこで研究グループは今回、本物のヘビを見たことのない3頭のサルに9枚の動物写真から1枚だけ別の動物を選ばせる実験を行った。8枚のイモリから1枚のヘビを選ぶ場合と、8枚のヘビから1枚のイモリを選ぶ場合で、ヘビまたはイモリを選ぶ時間を比較した。
その結果、3頭ともヘビを見つけ出すほうが早いことを確認した。これは、ヘビはほかの動物より早く見つけられるという、これまでの結果と一致している。また、身体や尾の長い動物(イモリ)よりも、ヘビを早く見つけられることが示された。
視床枕や、それと密接に関連する皮質領域がヘビの検出を担っている可能性
さらに、先の実験で用いたイモリの写真に画像処理でヘビのウロコを貼り付けて、先のヘビの写真と比較したところ、2頭のサルはヘビとウロコありのイモリを同じ時間で見つけ、1頭はむしろウロコありのイモリを見つけるほうが早くなった。ヘビの写真に違いはなく、イモリもウロコをまとっただけで、このように見つける時間が変わったことは、ヘビのウロコに対して敏感に反応していることを意味している。
脅威の素早い検出は、網膜からの情報を大脳皮質で順次処理して恐怖の中枢である扁桃体へ伝えるのではなく、網膜から皮質を経由せずに「上丘-視床枕」を介して扁桃体へ直接伝える経路を使うと考えられている。視床枕にはヘビのウロコ様の模様に反応する神経細胞があり、ヘビの写真に対して活発に反応することから、視床枕やそこと密接に関連する皮質領域がヘビの検出を担っていると考えられる。
先日亡くなったホラーマンガ家・楳図かずおさんの代表作の一つに「へび女」という作品がある。その中の「ママがこわい」という話の冒頭で、主人公の少女は入院している母から「病院にはへび女がいる」という話を聞く。母親はへび女のことを「からだじゅうウロコがはえていて、口が耳もとまでさけて、すごい顔をしているそうよ」と説明する。単行本の目次ページの背景には一面、ヘビのウロコが描かれている。これはヒトがヘビのウロコを怖れるということを、無意識のうちに気付いていたのかもしれない。
ヘビへの防御策として、ヘビのウロコを見つけるように視覚システムが進化した可能性
今回の研究によりサルがヘビを脅威と感じるのは、長い身体や尾、クネクネした動きや姿勢のせいでなく、ヘビのウロコのせいであることが判明した。
「これは、進化の過程で霊長類の祖先が、何百万年も唯一の捕食者であったヘビへの防御策として、ヘビの特徴であるウロコを見つけるように視覚システムを進化させたためだと考えられる」と、研究グループは述べている。
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