マスト細胞が物理的刺激でヒスタミンを放出するメカニズムは不明
山梨大学は11月22日、サイトカインのIL-33がマスト細胞に作用すると、圧力センサータンパク質PIEZO1の発現を強く誘導すること、その結果、物理的刺激(圧力)に対するマスト細胞の感受性が高まり、軽微な触圧刺激であっても、マスト細胞からヒスタミンが放出され、痒みや炎症が誘発されることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医工農学総合教育部医学専攻(博士課程)の小林義照大学院生と同大大学院総合研究部医学域中尾篤人教授(免疫学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」に掲載されている。
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蕁麻疹は痒みを伴う赤みを帯びたふくらみ(膨疹)が皮膚に出現し、長くても1日以内に跡形なく消えてしまう皮膚疾患である。この症状は、皮膚のマスト細胞(肥満細胞)という免疫細胞が何らかの刺激で活性化されヒスタミンという化学物質を放出することで生じる。日本では、人口の0.5~1%程度が、6週間以上症状が続く蕁麻疹(慢性蕁麻疹)に罹患している。蕁麻疹には、原因がわからない特発性の蕁麻疹と、ストレスやアレルゲン、温度、光などの刺激によって生じる刺激誘発型の蕁麻疹がある。中でも、ベルトや下着などによる締め付けによって生じる刺激誘発型の蕁麻疹は有名である。しかし、マスト細胞が締め付けという物理的刺激(圧力)で活性化され、ヒスタミンを放出するメカニズムはわかっていなかった。
マスト細胞IL-33刺激<圧力センサーPIEZO1強発現<マスト細胞感受性up・ヒスタミン放出
今回の研究では、IL-33により、マウスやヒトのマスト細胞を刺激すると、触覚や聴覚・平衡感覚などを感知する圧力センサータンパク質PIEZO1の発現を通常の約20倍強く誘導されることを見出した。さらに、PIEZO1を特殊な化合物によって特異的に刺激すると、ヒスタミンやロイコトリエンといった化学物質やサイトカインIL-13が大量に産生されることも確認した。
マウスの皮膚にIL-33を注射した後では、通常ではマウスが痒がらない軽微な圧力の触刺激であってもマウスに痒み行動が誘発された。このマウスの行動は抗ヒスタミン薬で抑制され、またマスト細胞が遺伝的に欠損しているマウスでは認められなかった。
以上の実験結果から、IL-33がマスト細胞に作用すると、圧力センサータンパク質PIEZO1が強く発現され、その結果、物理的刺激(圧力)に対するマスト細胞の感受性が高まり、軽微な触圧刺激であっても、マスト細胞からヒスタミンなどが放出され、痒み(や炎症)が誘発されることがわかった。
IL-33阻害、慢性蕁麻疹の新しい治療法となる可能性
今回の研究成果は、ある特定の蕁麻疹の患者に見られる、「ベルトや下着などによる締め付けによって蕁麻疹が誘発されるのはなぜか?」という古くからあった謎を解明した重要な発見だという。また、痒いところを一度掻くと余計にその場所が痒くなるのは、このメカニズムが関与している可能性がある。将来、IL-33の作用を阻害することが慢性蕁麻疹の新しい治療法になる可能性がある。免疫学的には、マスト細胞という免疫細胞が、アレルゲンや病原体だけではなく「圧力」という目に見えない物理的刺激をも感知できることを示した画期的な発見でもある、と研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース