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EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか

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2024年11月22日 AM09:20

EBウイルス感染で全身に炎症症状を起こすCAEBV、確実な治療薬は無い

東京科学大学は11月18日、)に対するJAK1/2阻害剤ルキソリチニブの効果を検証する医師主導治験を実施したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科血液内科学分野の山本正英講師、聖マリアンナ医科大学血液・腫瘍内科学の新井文子主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood neoplasia」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

CAEBVは、EBウイルスがT細胞またはNK細胞に持続的に感染し、それらの細胞が増殖しやすくなることで、発熱や肝機能障害などの全身的な炎症症状を引き起こす疾患である。進行すると、悪性リンパ腫や血球貪食症候群などの重篤な合併症が生じることがある。日本では年間約30例しか報告されておらず、非常にまれな疾患として知られている。主に日本や韓国、中国東部など東アジアで多く報告されているが、2017年にWHOの造血器腫瘍分類に記載されてからは、欧米でも徐々に認識が広まりつつある。

EBウイルス自体は、ほぼすべての成人が感染する一般的なウイルスであり、感染後はリンパ球の一種であるB細胞に潜伏する。しかし、なぜ一部の人々において、B細胞以外のT細胞やNK細胞に感染が広がり、CAEBVが発症するのか、その詳細なメカニズムはまだ解明されていない。

CAEBVに対する化学療法は効果が限られており、現在CAEBVの熱や肝機能障害などの炎症症状(疾患活動性)を確実に抑える治療薬は存在しない。CAEBVの唯一の根治療法は同種造血幹細胞移植だが、全ての患者に適用できるわけではなく、さらに、移植を行う前に疾患活動性を十分に抑えておかないと、移植の成績が悪化することがわかっている。従って、新たな治療薬の開発が急務となっている。

骨髄線維症などで承認済みのルキソリチニブ、CAEBVへの効果が期待されていた

研究グループはこれまでに、CAEBV患者のEBウイルスに感染したT細胞とNK細胞において、転写因子STAT3が常に活性化していることを発見していた。さらに、1/2阻害剤で骨髄線維症、真性多血症に対しすでに承認・使用されている薬剤であるルキソリチニブを使用すると、このSTAT3の活性を抑えることができ、EBウイルスに感染したT細胞やNK細胞が増殖しにくくなり、炎症を引き起こす物質であるサイトカインの産生も抑制されることを明らかにしていた。これらのことから、ルキソリチニブにはCAEBVに特徴的な長引く炎症症状の改善、EBウイルス感染細胞の腫瘍化を防ぐ効果が期待されていた。

CAEBV対象にルキソリチニブを評価する医師主導治験、22%で疾患活動性が完全消失

JAK1/2阻害剤ルキソリチニブがCAEBVの治療薬として有効かどうかを検証するために、その有効性と安全性を確認する医師主導治験を実施した。13歳以上で、発熱や肝障害などの疾患活動性を示す患者を対象とした。2019年1月から2021年8月までの間に9人(男性5人、女性4人、13~64歳)の患者が参加した。治療期間は基本的に8週間だが、効果が見られた患者は移植の準備が整い次第早期に治療を終了できるように規定した。また、効果が持続している患者には、移植までの間、治療期間を16週間まで延長することも可能とした。

治療の効果は、疾患活動性(発熱、肝障害、ぶどう膜炎、血管炎、皮膚病変)がすべて消失した場合を「完全奏効」、一部の症状が消失し、さらに新しい症状が現れなかった場合を「部分奏効」、新たな症状が出現した場合を「進行」として評価した。ルキソリチニブを服用後、8週間後、または早期終了した患者で効果を評価した(主評価項目)。主評価項目における完全奏効率は22%(9人中2人)だった。4週目時点での完全奏効率は11%(9人中1人)だった。延長投与を行った患者も含めると、治療終了時の完全奏効率は30%(9人中3人)となった。

病変の縮小によると見られる出血が1件、深刻な副作用はなし

1人の患者で、ルキソリチニブ治療中に喉からの出血が見られたため、治療を中止した。この患者は喉にCAEBVによる病変があり、出血はその病変が縮小したことによるものと考えられた。血液毒性(白血球や血小板の減少)やその他の深刻な副作用は認められなかった。7人の患者が予定された治療を完遂し、そのうち5人(71.4%)は外来での治療が可能だった。

いまだCAEBVの根治薬はない。今回の研究は、CAEBVを対象とした世界初の治療薬開発に向けた治験である。「今回の結果から、ルキソリチニブがCAEBV患者の症状を改善し、移植の成績向上およびそれによる生命予後の改善をもたらす可能性が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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