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加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか

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2024年11月22日 AM09:30

知的障害に伴う認知症の早期発症モデルマウスを作製

東京都医学総合研究所は10月12日、ZBTB18/RP58ハプロ不全関連知的障害モデルマウスであるRp58ヘテロ欠損マウスが、加齢による空間認知機能の早期低下を示すこと、その原因が海馬歯状回の苔状細胞のDNA損傷蓄積、ミクログリアの活性化、慢性炎症であると推察され、ミノサイクリンにより予防できることを見出したと発表した。この研究は、同大当研究所基礎医科学研究分野の田中智子氏、吉種光氏、精神行動医学研究分野の岡戸晴生氏、平井志伸氏、新保裕子氏、病院等連携支援センターの遠藤堅太郎氏、基盤技術支援センターの西藤泰昌氏、学術支援室の堀内純ニ郎氏、奈良県立医科大学の眞部寛之氏の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neuroinflammation」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

知的障害は神経発達障害のひとつであり、知的機能および適応機能の障害が発達期に始まる。さまざまな環境要因:外傷、神経障害、栄養障害、代謝障害によって惹起され、遺伝的要因もまた、主な原因である。1q43q44微小欠失症候群は知的障害を呈し、ジンク(Zn)フィンガーおよびBTBドメイン含有タンパク質18(ZBTB18/ZNF238/ZFP238/RP58、以下RP58)は、1q43q44微小欠失症候群の原因遺伝子産物の一つとして同定されている。RP58は、N末端にBTBドメイン、C末端に4つのZnフィンガーモチーフを持つ転写制御タンパク質である。知的障害患者のゲノム解析から、RP58遺伝子の多くの切断型変異体やナンセンス変異、ミスセンス変異が見つかっており、RP58のハプロ不全が知的障害の原因であることが知られている。したがって、RP58のハプロ不全に伴う知的障害に対する治療戦略を確立することが重要である。

研究グループは以前にRp58の従来型欠損マウスと条件的欠損マウスを作製し、Rp58が大脳皮質の形成に重要な役割を果たしていることを示した。RP58は新生児の脳で高発現し、その発現は大脳皮質のグルタミン酸作動性神経細胞で脳の成熟後も続く。また研究グループは以前、Rp58ヘテロ欠損マウスがヒトのRP58ハプロ不全に伴う知的障害のモデルとして機能することも示した。しかし、なぜRP58の異常が知的障害を引き起こすのかは不明である。さらに、この疾患の予防法や治療法も知られていない。

知的障害の患者は、認知症になりやすいことが指摘されている。そこで今回の研究では、知的障害モデルマウスであるRp58ヘテロ欠損マウスを用いて、成体期における認知機能障害の発現に焦点を当てた。その結果、以下の6点が明らかとなった。

1)Rp58ヘテロ欠損マウス、早期に加齢性認知機能低下

生後4~5か月の野生型マウスの空間認知機能は、生後2か月のRp58ヘテロ欠損マウスとほぼ同じであったが、生後12~18か月では有意に低かった。これは空間学習または記憶の、加齢に伴う障害を示すものだ。一方、Rp58ヘテロ欠損マウスは、生後2か月では野生型マウスと同程度の空間認知機能を示したが、4~5か月齢で有意に低下し、早期の認知機能障害発症を示した。Rp58ヘテロ欠損マウスは、4~5か月齢では、オープンフィールド、ロータロッド、恐怖条件付けテストといった他の行動テストでは有意な行動異常を示さなかったことから、同マウスでは空間学習が特異的に障害されると考えられた。海馬CA1領域のシータパワーを記録したところ、Rp58ヘテロ欠損マウスの物体認識障害は、シータパワーの低下が学習時にすでに見られたことから、記憶の保持や想起というよりもむしろ、物体の位置の学習障害に起因している可能性が示された。

2)海馬歯状回の苔状細胞でDNA損傷が早期蓄積

海馬歯状回の苔状細胞は、顆粒細胞から収束性の興奮を受け、両側性、広範性、発散性の興奮を返すことによって、空間記憶に重要な役割を果たしている。2か月齢のRp58ヘテロ欠損マウスは、野生型マウス同様に、DNA損傷および蓄積マーカー陽性の苔状細胞はほとんど認められなかった。一方、4~5か月齢においてDNA損傷、蓄積マーカー陽性苔状細胞の数は、野生型マウスに比べて有意に増加した。このことは、Rp58ヘテロ欠損マウスは野生型と比較して、苔状細胞におけるDNA損傷蓄積が加速していることを示している。

3)海馬で活性化ミクログリア増加を確認

活性化ミクログリアはDNA損傷を受けた神経細胞の周辺に集積することが知られているため、研究グループは次に海馬歯状回のミクログリアに注目した。その結果、Rp58ヘテロ欠損マウスでは、生後2か月では野生型マウスと同程度の活性化ミクログリアの割合であった。一方、生後4~5か月では野生型マウスと比較してCD68を指標にして評価した活性化ミクログリアの有意な増加が見られた。

4)海馬でミトコンドリアの超微細構造が変化

4~5か月齢のRp58ヘテロ欠損マウスでは、海馬歯状回の神経細胞におけるミトコンドリアの大部分は形態的に加齢時に認められるタイプであることが電子顕微鏡解析で明らかとなった。

5)Rp58ヘテロ欠損マウスでDNA修復不全検出

Rp58ヘテロ欠損マウスの放射線誘発DNA損傷からの回復を観察した結果、海馬においてDNA損傷修復の遅延が認められた。このRp58ヘテロ欠損マウスにおけるDNA損傷修復の遅延は、DNA修復不全が原因である可能性が示唆された。

6)ミノサイクリン慢性投与、早期老化表現型を抑制

テトラサイクリン系抗生物質ミノサイクリンは、最近いくつかの神経変性疾患の進行に対して神経保護作用や抗炎症作用があることが示されている。ミノサイクリンの慢性投与は、4~5か月齢のRp58ヘテロ欠損マウスの歯状回におけるDNA損傷蓄積苔状細胞の増加や活性化ミクログリアの増加を抑制し、これに続く認知機能低下を予防した。

Rp58ヘテロ欠損マウス、知的障害と認知症の関係を解析するモデル動物として有用

Rp58ヘテロ欠損マウスは、2か月齢では野生型マウスと同程度の認知機能を持つが、4~5か月齢では認知機能が低下することから、先天的な認知機能障害である知的障害だけでなく、後天的な認知機能障害である認知症を発症する可能性が示唆された。認知症は知的障害患者の併存疾患であり、知的障害自体が認知症の危険因子と考えられる。高齢者の大脳皮質では、RP58の発現が著しく低下していることが報告されている。一方で、Rp58ヘテロ欠損マウスの早期認知機能低下はDNA修復障害と関連しており、ウェルナー症候群など多くの早期老化症候群はDNA修復関連遺伝子の変異によって引き起こされることが知られている。したがって、Rp58ヘテロ欠損マウスは、知的障害と認知症の関係を解析するモデル動物として有用であると研究グループは指摘している。

今回の研究により、細胞がどのようにしてエピゲノム情報を維持、継承する過程における、複製フォーク保護複合体、特にMrc1/Claspinの役割とそのメカニズムが明らかになった。このメカニズムは、ゲノム上のサイレンシング状態の維持に必須な役割を果たす。RP58の発現量の不足が早期の加齢性空間認知機能低下を引き起こすことが実証され、その原因として、海馬におけるDNA修復不全によるDNA損傷蓄積、ミクログリアの活性化が示唆された。この表現型は野生型マウスでは老年期に見られるものである。したがって、RP58の発現量の不足が、海馬の加齢性変化を加速し、空間認知機能低下を惹起したと推察される。RP58がDNA損傷修復を制御するメカニズムを解明するためには、さらなる研究が必要である、と研究グループは述べている。

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