医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか

糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか

読了時間:約 3分29秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年11月21日 AM09:20

既存の糖尿病患者の日常的なモニタリング手法には課題があった

東京大学医学部附属病院は11月15日、新たに開発した唾液グリコアルブミン(GA)検査法により、従来用いられてきた採血GA検査とほぼ同等の結果が得られたことを報告したと発表した。この研究は、同附属病院糖尿病・代謝内科の相原允一助教、熊本大学病院 ・代謝・内分泌内科(大学院生命科学研究部)の窪田直人教授、株式会社Provigate(東京大学発医工連携スタートアップ企業)の関水康伸代表取締役CEOらの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes Research and Clinical Practice」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

糖尿病の治療には服薬と合わせて食事・運動による血糖管理も重要とされている。食事・運動の効果を知るためには、適切な頻度での血糖モニタリングが欠かせない。そのため、通院時の採血で測定されるヘモグロビンA1c(HbA1c)値や血糖値、グリコアルブミン(GA)値のほか、在宅で検査できる、指先血の随時血糖値を測定する血糖自己測定器(SMBG)や、センサを皮下に留置して連続的に間質液のグルコース濃度を測定する持続血糖モニタリング機器(CGM)なども使われている。これらの血糖関連バイオマーカーおよび測定法は、病気のスクリーニングやモニタリングに不可欠だ。しかし、糖尿病患者の日常的なモニタリング手法として、食事・運動療法などの効果を把握するためには、いずれの手法にも課題がある。

HbA1c値は診断や長期的な血糖管理のための指標として有用だが変化が遅く、行動の変化を迅速に捉える場合には適していない。また、静脈採血による血糖値測定、および指先穿刺を必要とするSMBGによる血糖測定は、その瞬間の血糖値しか得られないため睡眠時や食事・運動により変化する血糖変動の全貌を捉えるためには専門的な知識と頻回の採血が必要になる。CGMを用いれば10~14日間の血糖変動を連続的に捉えることができるが、アプリケーターによる穿刺と皮下へのフィラメント留置、また皮膚に機器を貼り付けた状態で生活するという負担、およびコスト上の課題も指摘されている。

そのため実際には、糖尿病患者の多くが1か月~数か月に1度の通院時のHbA1c値を頼りに、手探りで食事・運動療法を行わざるを得ないのが現状だ。このような課題に対する解決案として、スマートウォッチ型の非侵襲血糖計についてしばしば報道がある。しかし、実用的な精度を達成したウェアラブルな非侵襲血糖計はこれまで実用化されていない。米国食品医薬品局(FDA)や日本糖尿病学会は、このような機能を謳う未承認機器の使用による健康リスクについて警告を発している。

唾液を用いたより実用的な糖尿病の臨床検査手法を開発

この現状を打開するため研究グループは、全く異なる手法による実用的かつ非侵襲的な糖尿病管理手法を模索してきた。これまでに、非侵襲的に採取できる唾液・涙液からアルブミンが採取でき、それらを用いてGA値が分析可能なこと、指先から自己採血され郵送された微量の血液からGA値を分析する手法、さらに2型糖尿病のある方が通常診療に上乗せして在宅でGA値を週1回測定することで、血糖値が改善し得ることなどを報告してきた。

今回の研究では、これらの研究成果をさらに発展させ、唾液を用いたより実用的な臨床検査手法を開発した。この方法を用い、糖尿病の血糖管理のために入院した人の協力を得て、従来の血液検査との性能比較を行った。

測定した唾液GA値、従来の血液GA値と高い相関示す

研究は単施設( 糖尿病・代謝内科)での探索的な観察研究として実施された。糖尿病の血糖管理のために入院患者の協力により、入院から3日以内の空腹時、食後の採血・唾液検体と、退院前3日以内の空腹時における採血・唾液検体を使用した。従来から使われている血液検体を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法の結果と、同時に採取した唾液のHPLC法の結果を比較するとともに、結果に影響し得る交絡因子の解析も行った。

研究では、1型糖尿病患者、2型糖尿病患者合わせて56人の各3回の採取検体(計168検体)のうち、血液量不足2検体、唾液量不足11検体、分析前処理の不具合4検体、分析後判明した検体濃度不足7検体を除いた計144検体を解析した。その結果、入院時における空腹時採取(n=45, R2=0.985)、入院時の食後2時間での採取(n=48, R2=0.973)、退院時における空腹時採取(n=51, R2=0.979)と、いずれも非常に高い決定係数が得られた。また、共変量としてBMIや糖尿病腎症ステージで補正した多変量解析でも同様に有意な相関がみられた。

今回、唾液検体および採血検体、両方のグリコアルブミン(GA)値を測定したが、唾液と血液を用いた測定値は入院直後の空腹時、入院直後の食後、退院直前の空腹時のいずれでも高い相関を示したことから、従来の血糖モニタリングの手法である血液検査とほぼ同等の結果が唾液検査で得られることが明らかになった。

唾液検査で血糖モニタリングである血液検査と同等の結果が唾液検査で得られると判明

今回の研究により、非侵襲的に採取できる唾液検体を用いて、従来の臨床検査とほぼ同等の精度でGA検査が可能なことが明らかとなった。この検査法を、同研究グループがこれまでに開発してきた指頭血の郵送検査の手法と組み合わせることで、将来、週1回の在宅唾液GAモニタリングに発展させられる可能性もある。「これらにより、従来の検査法を補完できる完全非侵襲な糖尿病血糖管理法の実現が期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大