顕性アルブミン尿期の患者への有効性は既報告、微量アルブミン尿期について検討
岡山大学は11月11日、臨床試験によりSGLT2阻害薬であるカナグリフロジンが早期の糖尿病性腎症の進行を抑えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院新医療研究開発センターの宮本聡助教、同大の四方賢一名誉教授、オランダのフローニンゲン大学医療センターのHiddo J. L. Heerspink教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Kidney International」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
糖尿病の増加に伴い、合併症の一つである糖尿病性腎症によって腎不全となる人が増加し、透析療法が必要となる最大の原因となっている。糖尿病性腎症の早期には、腎臓で血液をろ過して尿を作る糸球体に障害が起こり、血液中のタンパク質の一つであるアルブミンが尿中に漏れ出す(アルブミン尿)。糖尿病性腎症では、アルブミン尿の量がまだ少ない早期(微量アルブミン尿期)から腎機能が低下し始め、アルブミン尿の増加とともに腎機能の低下速度が速くなる。アルブミン尿が増加すると、糖尿病性腎症が進行して透析療法が必要になる危険性が高くなり、さらには心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患による死亡率も増加することが知られている。
2019年に報告された臨床試験CREDENCE試験により、SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンが糖尿病性腎症に有効であることが明らかになっている。この試験は、糖尿病性腎症ですでにアルブミン尿が増加している人(顕性アルブミン尿期)を対象に実施され、カナグリフロジンが腎不全に至る危険性を減らすとともに、腎機能の低下速度を遅くすることが報告されている。しかし、糖尿病性腎症が進行してから治療を開始すると、病気の進行を完全に阻止することが難しいため、より早期に治療を開始する必要がある。
参加者負担を考慮し、新たな効果判定方法を取り入れた臨床試験を計画
そこで研究グループは、より早い時期(微量アルブミン尿期)からSGLT2阻害薬による治療を行うことによって、腎症の進行を阻止することができるのではないかと考え、CANPIONE研究を計画した。糖尿病性腎症に対する治療薬の有効性を検証するためには、治療薬を使用した群とプラセボ(偽薬)を使用した群の間で、腎不全や透析あるいは一定以上の腎機能の低下がどの程度起こったかを比較する。しかし、この方法で早期の糖尿病性腎症を対象に研究を実施すると、非常に多くの人に長期間治療を行う必要があり、参加者の負担を考慮すると現実的ではなかった。そこで研究グループは、参加者の負担を軽減しながら、短期間で治療の有効性を評価するため、治療開始前後の腎機能の低下速度の変化を指標として治療効果を判定する方法を考案して臨床試験(CANPIONE study)を実施した。
同試験は、微量のアルブミン尿が出ている2型糖尿病を対象に、多施設共同研究として日本国内の21施設で実施した。258人が参加し、治療開始前の検査で試験の基準に該当した98人を、無作為にSGLT2阻害薬(カナグリフロジン)群と対照群に分けた。カナグリフロジン群はカナグリフロジン100mgを1日1回内服、対照群はSGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を用いて治療を実施。いずれのグループも日本糖尿病学会のガイドラインで示された血糖管理目標値を目指した治療を52週間行った。
カナグリフロジン群、対照群と比べアルブミン尿が経過中に30.8%有意に減少
同試験では、1)治療開始後のアルブミン尿の変化と、2)治療開始前後の腎機能低下速度の変化を調べた。アルブミン尿は将来的な腎機能の悪化と密接に関連している。その結果、カナグリフロジン群では、対照群と比較して、アルブミン尿が経過中に30.8%有意に減少した(95%信頼区間:−42.6%~−16.8%、P=0.0002)。治療によって、アルブミン尿が対照群と比較して30%以上減少すると、将来、腎不全や透析あるいは一定以上の腎機能の低下をきたす危険性が低下することが明らかになっており、今回はその基準を上回る治療効果が得られたと考えられた。
eGFRの傾きの変化からカナグリフロジン群で腎機能の低下速度抑制示す
腎機能の指標としてeGFR(推算糸球体濾過量、単位:ml/min/1.73m2)を用い、腎機能低下速度を表す検査としてeGFRの傾きを調べた。対照群では、治療開始前後のeGFRの傾きの変化は−3.1/年だった。一方、カナグリフロジン群では、治療開始前後の変化は1.4/年であり、両群間の差は4.4/年(95%信頼区間:0.6~7.3、P=0.0022)となり、対照群と比較して、カナグリフロジン群で腎機能の低下速度が抑制されていた。これは、腎機能の低下にブレーキがかかったことを示唆している。
10年、20年先を見据え、早期から有効な治療を開始することが重要
糖尿病の治療の目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質を実現することである。しかし、糖尿病性腎症によって腎機能が低下し、腎不全や透析が必要な状態になると、この目標達成の大きな障害となる。今回、早期の糖尿病性腎症(微量アルブミン尿期)の患者を対象としたCANPIONE studyによって、SGLT2阻害薬による治療により、糖尿病性腎症の進行を遅らせることが期待できることがわかった。早期の糖尿病性腎症では、腎機能の低下速度はそれほど早くないが、今回の研究によって、この時期(微量アルブミン尿期)にSGLT2阻害薬による治療を行うことによって、腎機能の低下速度に違いが出ることがわかった。「この違いは、2~3年先であればそれほど大きくはないが、10年先、20年先の腎機能は治療の有無により大きな差となって現れる可能性があり、できるだけ早期から有効な治療を開始することが非常に重要と考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・岡山大学 プレスリリース