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抗がん剤「ドキソルビシン」の副作用を劇的に抑えた薬剤開発に成功-理研ほか

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2024年11月19日 AM09:10

さまざまながん種に効果を示すドキソルビシン、副作用は深刻で累積量の上限も

(理研)は11月8日、副作用を劇的に抑えた新しいドキソルビシン薬剤の開発に成功したと発表した。この研究は、理研開拓研究本部田中生体機能合成化学研究室の田中克典主任研究員(東京科学大学物質理工学院応用化学系教授)、アンバラ・プラディプタ客員研究員(同大学物質理工学院応用化学系助教)、髙橋ゆりあ研修生(同大学物質理工学院応用化学系修士課程2年)、寺島一輝研修生(同大学物質理工学院応用化学系博士後期課程2年)、、大阪国際大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Tetrahedron Chem」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

がん化学療法において副作用はいまだに深刻な問題である。特に、抗がん剤の「ドキソルビシン」は、実際に臨床の現場で多用されており、さまざまながん種に効果を発揮するが、正常細胞にも影響を与えるため、多くの患者が大幅な体重減少・骨髄抑制・脱毛などの副作用に悩まされている。さらに、心毒性などの副作用も報告されており、生涯に投与できる累積量の上限が定められている。

がん細胞内で化学反応を起こし、ドキソルビシンを発生させるプロドラッグを開発

これまでに研究グループは、さまざまながん細胞でアクロレイン分子が大量に産生されていることを見出し、さらに、がん細胞内でアジド基(-N3)を持つフェニルアジドとアクロレインが選択的に環化付加反応を起こすことを利用した「」の設計に成功していた。今回、研究グループは、がん細胞内で有機化学反応を行い、がん細胞内のみでドキソルビシンを発生させることにより、副作用を抑えることのできる新たなドキソルビシン薬剤の開発に挑戦した。

ステップ数減らし、ドキソルビシンプロドラッグを簡便に合成する手法確立

研究グループははじめに、非臨床や臨床試験用のCMC検討とGMP製造に向け、ドキソルビシンプロドラッグを簡便かつ大量合成できる手法の開発に取り組んだ。従来のルートでは、中間体1と呼ばれる化合物を合成するのに遷移金属(Pd(PPh3)4)や一酸化炭素(CO)を用いるため操作が複雑で、中間体1までに3ステップを要した。今回の研究では、これらを用いず、ステップ数を2ステップに減らした新規ルートを新たに開拓した。これにより、容易かつ大量にドキソルビシンプロドラッグを合成することが可能になった。

さらに、合成したドキソルビシンプロドラッグの細胞毒性を評価したところ、正常細胞と比較してがん細胞で有意に高い活性を示すことが確認された。

肺がん細胞株移植マウスにおいて、副作用抑えつつ腫瘍増加を有意に抑制

続いて、ドキソルビシンプロドラッグの治療効果について検証した。肺がん細胞株(A549細胞)を移植したヌードマウスに対して、それぞれ生理食塩水(無治療群)、ドキソルビシンプロドラッグ、ドキソルビシン(抗がん剤本体)を4回投与した。無治療群では、時間の経過とともに腫瘍の増大が確認された。ドキソルビシンを投与した場合には、腫瘍の増加を抑えたものの深刻な副作用により全ての個体が実験終了前に死亡してしまった。また、急激な体重減少が確認された。しかし、同等量のドキソルビシンプロドラッグを投与した場合には、副作用を抑えつつ腫瘍の増加を有意に抑えることがわかった。

開発したプロドラッグ、血液中で安定に滞在しがん細胞中で最低限のドキソルビシン放出

さらに、ドキソルビシンプロドラッグががん細胞内で抗がん剤に変換される機構の解明に挑んだ。そこで、同薬剤投与後の血中と腫瘍の薬剤濃度を時間経過に沿って測定した。静脈注射で投与されたドキソルビシンプロドラッグは、血液中のアルブミンに結合することにより、血液中で安定に滞在することが確認された。その後、徐々にがん細胞内に移行し、がん細胞中のアクロレインと少しずつ反応することで、治療に必要最低限のドキソルビシンが放出されることを確認した。このように必要最低限のドキソルビシンががん細胞内で放出されることで、正常細胞などには影響を及ぼさず副作用の少ないがん化学療法ができると考えられる。

投与4時間後には全身に分布、蓄積せず7日後にほとんどの臓器から排せつ

また同薬剤の安全性を評価するために、放射線標識(トリチウム(3H)標識)したドキソルビシンプロドラッグを用い、投与から排せつまでの動きを調べた。ドキソルビシンプロドラッグは、投与から4時間後には血液中で安定に存在して、がんを含めて全身に分布していた。しかし、その後は蓄積することなく、168時間(7日)後にはほとんどの臓器から速やかに排せつされた。特定の臓器に長時間蓄積する場合には、副作用を伴うが、同薬剤は体内に最小限しか蓄積せず速やかに排せつされ、良好な安全性を示すことがわかった。

ヒトがん腫瘍移植マウスでもドキソルビシンプロドラッグは副作用を抑えつつ治療

最後に、同薬剤の患者への応用を目指し、ヒトのがん腫瘍を移植したマウス(患者腫瘍移植モデル:PDXモデル)で治療実験を行った。このマウスは従来の担がんマウスとは異なり、患者の腫瘍を直接移植しているため、実際の環境に非常に近いモデルである。そのため、このモデルで成功することは、臨床研究への大きな一歩となる。

肺がんの患者腫瘍移植モデルに対して、ドキソルビシンプロドラッグまたはドキソルビシンを投与したところ、ドキソルビシンでは副作用により早期に死亡が確認された一方で、ドキソルビシンプロドラッグでは副作用を抑えつつ治療することができた。これは、、胃がんでも同様の傾向が見られた。このことから、ドキソルビシンプロドラッグは少ない副作用でがん患者を治療できる可能性がある。

今回、研究グループは、がん細胞内で有機化学反応を行い、がん現地でドキソルビシンを少しずつ発生させることで、副作用を大幅に抑える新たなドキソルビシンプロドラッグを開発した。この薬剤は、実際の患者に非常に近いモデル(患者腫瘍移植マウス)においても副作用を抑えつつ有意に腫瘍の増加を抑制した。「今後、非臨床や臨床の研究を進めることにより、副作用を抑えたドキソルビシン薬剤を患者に届けることができると期待される」と、研究グループは述べている。

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