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大腸が右側/左側で「異なる臓器」と考えられる遺伝子発現の違いを発見-阪大ほか

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2024年11月19日 AM09:00

肉眼的・大腸内視鏡的には左も右も同じため「」として一括りに扱われてきた

大阪大学は11月11日、大腸内視鏡(カメラ)下小腸・大腸ステップ生検を行い、右側大腸と左側大腸について異なる臓器とも言えるような遺伝子発現の違いがあることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の谷内田真一教授、・内視鏡科の斎藤豊科長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Cancer」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

古くから、大腸の役割として腸管の水分吸収が知られていた。したがって、大腸が炎症()を起こすと、炎症が大腸のどの位置で起こるかに関わらず下痢になる。一方で、大腸がんは左側大腸(特にS状結腸と直腸で全体の75%)に多く、右側大腸がんとは発がん機構も異なることがわかりつつある。しかし、肉眼的(外から)、大腸内視鏡的(内腔から)には左側大腸と右側大腸に違いはみられないことから、「大腸」として一括りに扱われてきた。

また、小腸の回腸末端(小腸の出口付近)は大腸カメラで観察可能だが、病気が存在することは極めてまれであることから、生検はこれまで行われてこなかった。しかし、回腸末端はパイエル板などが存在し、腸管免疫の中枢であることが知られている。

小腸と大腸の比較では、多くの遺伝子で発現の差があると判明

研究グループは今回、斎藤豊科長の世界初の報告となる「大腸内視鏡(カメラ)下小腸・大腸ステップ生検」のサンプルを用いて、大腸(盲腸、上行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸)と小腸(回腸末端)の遺伝子解析を行った。まず、大腸カメラ検査で特記すべき所見がみられなかった健常者を対象に、各部位の生検組織からRNAを抽出し、全遺伝子の発現解析を行った。

その結果、小腸(回腸末端) vs. 大腸の比較では、多くの遺伝子で発現の差があった。特に大腸では「水分吸収に関わる遺伝子群」が高発現し、回腸末端では白血球、特に「T細胞の活性化や分化に関わる遺伝子群」が高発現していた。これまで知られていたように、大腸の主な役割は水分吸収、回腸末端は免疫システムが発達した臓器であることを確認できた。

中腸由来の右側大腸は異物に反応して制御、後腸由来の左側大腸は保水・細胞接着制御

次に、健常者を対象に右側大腸と左側大腸の遺伝子発現の違いを調べた。右側大腸では「生体異物(微生物や薬物を含む)への細胞反応」に関わる遺伝子群が多く、左側大腸では「」に関連する遺伝子群の高発現がみられた。つまり、右側大腸では本来生体には存在しない異物に反応し制御する役割、左側では細胞外マトリックスに関わる遺伝子発現による保水、細胞接着制御を行っていることが明らかとなった。

右側大腸は発生学的には中腸由来(小腸と同じ)、左側大腸は後腸由来だ。発生学的な差異を考慮すると、肉眼的には同じ臓器(大腸)に見えるが、その役割は左右で大きく異なることがわかった。小腸がんが極めて少ないのと同様に、右側大腸は左側大腸と比較して少ないことも関連している可能性がある。

大腸がん患者の正常組織は健常者と遺伝子発現が異なり、すでに未病状態である可能性

さらに大腸がん患者の「正常組織」と健常者の組織(大腸と回腸末端)の遺伝子発現を比較した。大腸がんは(1)早期大腸がんと(2)進行大腸がんに分類して検討を行った。その結果、(1)と(2)の両患者において、非腫瘍部(正常組織)であるにもかかわらず、健常者の組織と比較すると遺伝子発現が異なることが明らかとなった。大腸がんを有する患者の正常組織は健常者の組織とはすでに遺伝子発現が異なり、「未病状態」である可能性が示唆された。

この差は特に(2)進行大腸がんの患者において顕著で、大腸がんとは部位的(解剖学的)に離れた「回腸末端」においても遺伝子発現が健常者と比較して異なっていた。大腸がんの存在で回腸末端の遺伝子発現変動がみられる点は、(1)早期大腸がんではみられなかったことから、大腸がんが進行する過程で回腸末端が反応して遺伝子が変動していることを示唆している。回腸末端は腸管免疫の中枢であり、今後は大腸がん患者の小腸生検で小腸免疫環境を検索することで、「小腸免疫」をターゲットとした全く新たながん免疫療法の開発が期待される。

小腸免疫システムを活性化させるような新規の免疫療法の開発に期待

これまで大腸は一括りに一つの臓器として扱われてきた。しかし、右側大腸と左側大腸は異なる点が多いことが明らかになった。また、大腸がんを有する患者の正常組織は健康者の組織とは既に異なる遺伝子発現をしており、一度ポリープや大腸がんを有した患者は治療後も「大腸カメラによるフォローアップ」が大切であることが実証された。今後はこのような未病状態を健康に戻す「先制医療」が重要となり、「がん予防」への応用が期待できる。動物においては小腸免疫の重要性は指摘されてきたが、ヒトを対象とした研究では長い間、進歩がなかった小腸に焦点をあてて研究を行った。

「今後は、小腸免疫システムを活性化させるような新規の免疫療法の開発が期待される」と研究グループは述べている。

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