入試など試験の質が変化、現在の標準1.5倍の時間延長は妥当か?
筑波大学は10月31日、入学試験などにおいて、視覚障害のある受験者に対する現行の合理的配慮(点字による出題・解答と1.5倍の時間延長)は、複雑な表の読み取りを要する試験では不十分であることを解明し、視覚障害のある受験者の能力を適正に評価するための試験方法の検討が急務であることを提起したと発表した。この研究は、同大人間系の宮内久絵准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Visual Impairment & Blindness」に掲載されている。
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大学入学共通テストでは、現在、視覚障害のある受験者には点字による試験問題の提供と通常の試験時間の1.5倍の延長が認められている。しかし近年、図表を用いた出題の増加や問題の複雑化など、試験の質が変化している。一般に、点字使用者が図表を読み取るには多くの時間がかかり、図を用いた出題が多い場合、現在標準となっている1.5倍の時間延長を見直す必要があることが指摘されているが、複雑な表を含む試験に関する検討は行われていなかった。
点字使用の視覚障害あり学生20人+障害なし学生、4課題で調査
そこで今回の研究では、16~26歳までの通常の文字を使用する視覚障害のない生徒や学生20人と、点字を使用する視覚障害のある生徒や学生20人に対して、文章のみで構成される課題1つと、表形式の読み取りを含む課題3つの計4つの課題を用意した。課題1については文章の読み取りに要した時間、課題2〜4については出題された問題の該当箇所を表から探し解答するまでの時間を測定した。課題2〜4は課題番号が上がるにつれ、情報量が多くなり、難易度が増している。4つの課題はそれぞれ、通常の文字と点字で同じ内容のものを用意し、通常の文字の使用者に対しては通常の文字で用意した課題を、点字使用者に対しては点字で用意した課題を提示した。
なお、課題の詳細は、課題1:300字程度の文章の読み取り、課題2:15名の身長と体重のデータを身長の小さい順に並べた表の中から、指定した身長と体重にあてはまる人数を答える、課題3:時間割表の中から、指定した教科のコマ数を答える、課題4:15名の7科目のテストの得点と平均および順位がかかれた表の中から、特定の生徒の最高得点の科目を答える、だった。
表形式課題、点字使用者全員が1.5~2倍の時間内で課題達成できず
研究の結果、通常の文字使用者は、全員時間内に課題を達成できたのに対して、点字使用者では、文章形式の課題では1.5倍の時間内で70%が、2倍では全員が課題を達成できた。しかし、表形式の課題では、全員が1.5倍や2倍の時間内では課題を達成することはできなかった。
さらに、点字使用者の特徴として、健常者に比べて表形式の読み取り速度のばらつき(標準偏差)が大きいこと、文章形式の点字の読み取りの速さと表形式の点字の読み取りの速さは相関しない、の2点が明らかになった。
複雑な表をシンプルにする・触って理解する手段などが望まれる
今回の研究の結果から、表の読み取りを要する試験では、点字による受験者に対する現行の時間延長では不十分であることがわかった。しかし、長時間の試験による疲労を考えると、さらなる時間延長が本問題の解消につながるとは言えない。点字を使用する受験生に対する合理的配慮として、単に試験時間の延長をするだけではなく、複雑な表を可能な限りシンプルにするなど、触って理解するという手段やプロセスを考慮することが望まれる。今後、このような配慮内容の再検討に加え、障害の有無を問わず、一人ひとりの能力を適切に測るための試験方法の検討、すなわち現在の試験の枠組み自体の再考を進めていく予定である、と研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL