従来の滞空時間法での計測では10cm過大評価
慶應義塾大学は、ジャンプ高に影響を与えないセグメントの変位を基に、ジャンプ高を算出するスマートフォンアプリを開発したと発表した。この研究は、同大体育研究所(大学院健康マネジメント研究科委員)の稲見崇孝准教授らと、株式会社S-CADE.の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Sports Physiology and Performance」に掲載されている。
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多くのスポーツ競技において、速く走ることは高いパフォーマンスであり、良いコンディションであったことを示す。近年、「足が速い人ほど、より高くジャンプできる」という研究結果が明らかになり、さまざまなスポーツ競技の現場でジャンプ高が計測されている。
ジャンプ高は、スポーツパフォーマンスと関連する重要な指標であり、ジャンプ動作中の力 積から算出されるのがゴールドスタンダードとされている(力積法)。一方、近年では軽量なマットなど簡易デバイスを用いて、ジャンプ動作時の滞空時間からジャンプ高を算出することが可能となってきた(滞空時間法)。しかし、従来の滞空時間法では、離地時と異なる姿勢で着地するとジャンプ高が最大10cmも過大評価されてしまうことが先行研究で指摘されている。
そこで研究グループは、ジャンプ高測定における従来の課題を克服するため、ジャンプ高に影響を与えないセグメントの変位を基にスマートフォンを用いてジャンプ高を算出する「修正滞空時間法」を提案し、その妥当性を検証した。
大転子にマーカーを貼付した人が垂直跳びした時の様子を録画し、そのデータから高さを測定
検証では、24人の男性の大転子(股関節の外側にある大腿骨の上外方にある突起)へ事前にマーカーを貼付した。その後、地面反力計の上で全力の垂直跳びを実施してもらい、その動作をスマートフォン (iPhone)のハイスピードカメラ(240fps)で撮影。撮影した動画はS-CADE.社製のスマートフォンアプリ「JumpEye」にインポートされ、解析を行う仕組みだ。つまり、スマートフォンのカメラを使用してジャンプの離地時の大転子の高さを画像上で水平線として記録し、ジャンプ後、再びその水平線を大転子が通過するまでの時間(修正滞空時間法)からジャンプ高を算出する。
力積法によって算出したジャンプ高とほぼ同等の値かつ強い正の相関関係
修正滞空時間法によって算出したジャンプ高は、ゴールドスタンダードである力積法によって算出したジャンプ高とほぼ同等の値(誤差:0.2cm)かつ非常に強い正の相関関係(P=0.987)を示した。一方、従来の滞空時間法はジャンプ高を約3cm有意に過大評価する結果となり、力積法との相関も修正滞空時間法ほど強くはないことがわかった。
垂直跳び以外のジャンプ高測定にも有用か今後検証
これらの結果から、修正滞空時間法は従来の滞空時間法を上回る測定精度を有することが明らかとなった。研究成果はスポーツ現場における簡便かつより高精度なジャンプ高測定の実践に寄与するものであると考えられた。「研究では、最も一般的な自体重での垂直跳び動作(カウンタームーブメントジャンプ:CMJ) を用いて、修正滞空時間法の妥当性を検証した。今後は、CMJ以外の垂直跳び動作のジャンプ高測定においても、修正滞空時間法が本研究と同等の妥当性を有するかどうか検証を進めていたい」と、研究グループは述べている。
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