効率的な保健指導実現のためには、運動習慣獲得に影響する要因の解明が必要
筑波大学は11月7日、生活習慣の改善支援として特定保健指導を受けた中年勤労者のデータを機械学習により分析し、運動習慣の獲得に影響する要因を探索した結果、運動習慣の獲得に好影響を及ぼす要因として「生活習慣改善に対する行動変容ステージが高いこと」の重要度が最も高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系の中田由夫教授、女子栄養大学栄養学部の津下一代特任教授、名古屋大学医学部附属病院の尾上剛史病院講師、十文字学園女子大学人間生活学部の若葉京良講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Preventive Medicine Reports」に掲載されている。
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身体不活動は、高血圧、喫煙、高血糖に続き4番目の死亡リスク因子であり、健康の保持・増進のためには日常的に身体を動かす習慣を身につける(運動習慣を獲得する)ことが重要だ。日本では特定保健指導により、メタボリックシンドロームやその予備群に該当する者に対して、運動習慣を含む生活習慣改善を支援している。運動習慣の獲得は、保健指導による体重減少効果や減量した体重の維持効果を高めることがわかっていることから、より効率的な保健指導事業展開に向けて、運動習慣の獲得に影響する要因を明らかにすることが重要だ。
そこで研究グループは今回、特定保健指導(動機付け支援)を受けた中年勤労者のデータを機械学習により分析し、運動習慣の獲得に影響する要因を探索するとともに、各要因の重要度について検証した。
要因の探索のみならず、各要因が運動習慣獲得にどの程度重要であるかも評価
研究では、健康保険組合等の保険者が2017〜2018年の保健事業で取得したデータを二次利用しデータに欠損値がある者を除外して、2017年時点で運動習慣のない者(n=1万6,471;うち女性n=4,469)を対象に分析した。運動習慣の獲得に影響する要因を探索するため、まず2018年時点での運動習慣獲得状況(運動習慣ありを「獲得」、それ以外を「非獲得」)を従属変数、基本特性(性別、年齢、受診日など)、生理指標(body mass index、血糖値、血圧など)、調査票回答結果(食生活、睡眠、生活習慣改善に対する行動変容ステージなど)を独立変数(他の要因に影響されずに変化する変数)に投入し、LASSO回帰により特徴変数を選択した後、10種類の機械学習アルゴリズムを用いてモデルを構築した。なお、行動変容ステージとは、生活習慣を改善しようとする意図と行動の変容状況をステージごとに示したもの。ヒトが行動を変容させる際には「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5つのステージを順に通るとされている。
次に、データセット内の運動習慣獲得者の割合が均一になるよう、ランダムに機械学習用のトレーニングセット(n=1万1,529:獲得者n=1,105)と機械学習の答え合わせ用のテストセット(n=4,942:獲得者n=402)に分け、10分割交差検証)を用いて、モデルの効率的な学習に最適なハイパーパラメーターを設定し、その精度をROC曲線とその曲線下面積(AUC)で評価した。最後に10種類の機械学習アルゴリズムのうち、最も精度が高かったモデル(BGLM:Boosted generalized linear model、AUC = 0.68)を用いて運動習慣の獲得に影響する要因を探索するとともに、各要因の変数重要度(満点100点)を算出し、各要因が運動習慣の獲得にどの程度重要であるかを評価した。
運動習慣獲得に最も好影響を及ぼす要因は、生活習慣改善の行動変容ステージが高いこと
その結果、運動習慣の獲得に好影響を及ぼす要因として、生活習慣改善に対する行動変容ステージが高いこと(維持期、回帰係数=0.35:実行期、回帰係数=0.35)の重要度が最も高く、次いで、身体活動レベルが高いこと(回帰係数=0.32)、HDLコレステロール値が基準範囲内であること(回帰係数=0.21)の順に重要度が高いという結果が得られた。一方、1日3合(60gのアルコール)以上の飲酒(回帰係数=-0.20)は、運動習慣の獲得に悪影響を及ぼす可能性が示唆された。
要因を考慮した支援策の構築で、より効率的な保健指導事業の展開に期待
今回の研究により、特定保健指導(動機付け支援)を受けた中年勤労者における運動習慣の獲得には、行動変容ステージが高いことや、身体活動レベルが高いことなどが、好影響を及ぼす可能性が示唆された。
「今後、これらの要因を考慮した支援策を構築することで、より効率的な保健指導事業の展開につながると期待される」と、研究グループは述べている。
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