患者・家族の悩みは多くが未解決、希少疾患医療を支える医療従事者の悩みは?
日本製薬工業協会(製薬協)は11月7日、「希少疾患における医療従事者の困りごとに関する調査」を実施し、調査報告書を同会のウェブサイトに公開した。この調査は、製薬協と未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases、以下IRUD)、日本希少疾患コンソーシアム(Rare Disease Consortium Japan、以下RDCJ)、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社が協働で実施した。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
希少疾患は、疾患ごとの患者数は少ないものの、全世界では7,000を超える希少疾患が特定され、総患者数は3億人に上ると推定されている。国によって定義は異なるが、医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律(薬機法)に基づいた「希少疾病用医薬品・希少疾病用医療機器・希少疾病用再生医療等製品の指定制度」によれば、その指定要件は、「対象患者数が本邦において5万人未満であること、医療上必要性が高いこと、開発の可能性が高いこと」とされている。なお、米国では20万人未満、欧州では人口1万人に患者数5人未満が基準の一つにされている。また、患者数が少ないだけでなく、重篤度が高いうえに、発病機構が不明であることから、治療法の開発が難しく有効な治療法が限られるという特徴がある。
製薬協はこれまでに「希少疾患患者さんの困りごとに関する調査」 (対象:20 歳以上の指定難病と診断を受けている患者)を実施し、希少疾患に関わる患者・家族らにとって多くの課題がいまだに解決されていないことを明らかにしている。日本における希少疾患医療を支える医療従事者の声を取り上げ、より具体的な取り組みを実施していく必要があったことから、「希少疾患に関わる医療従事者の課題を特定し、解決策を提案・実行することで、難病・希少疾患に関わる医療や研究の質向上に寄与し、患者・家族に貢献する」ことを目的に調査を企画した。
IRUD/RDCJに関わる医療従事者327人対象にアンケート、うち15人にインタビュー
今回の調査は、定量調査と定性調査で構成されている。定量調査(Webアンケート調査)は、IRUD診断委員会に所属する医療従事者および同委員会より紹介された医療従事者、RDCJに参画している医療従事者を対象に、2024年7~8月に実施し327人から有効回答を得た。定性調査(インタビュー調査)は、定量調査に参加した327人のうち、協力を承諾した15人に対し同年9月に実施した。
70%の研究医は「研究資金の調達が困難」、69%の臨床医は「治療選択肢が海外より限られる」
定量調査の結果、次のようなことが明らかになった。日本の希少疾患における課題の全体像として、47%が「新規モダリティ(遺伝子治療・細胞医療等)の研究・開発環境の整備が不十分」と感じており、「専門人材やその育成プログラムが不足している」(41%)、「希少疾患に対する認知・理解を深める機会が限られている」(40%)と感じていることもわかった。
基礎・応用研究における課題として、70%の研究医は「研究資金の調達が困難」と感じていることもわかった。さらに、臨床における課題として、69%の臨床医は「治療の選択肢が海外と比して限られている」と感じており、52%の臨床医は「早期診断の実現に必要な体制整備が遅れている」と感じていることもわかった。
基礎・応用研究、疾患啓発など5領域に関して方向性を示す
調査結果を踏まえ、医療従事者の目線から、希少疾患に関する5領域(1.基礎・応用研究、2.開発・治験、3.診断、4.治療・予後管理、5.疾患啓発)における課題を抽出するとともに、それら課題に対する各ステークホルダー(製薬業界・学会・患者団体・行政)への期待や課題解決の方向性について取りまとめた。
1.基礎・応用研究:新規モダリティの創薬および診断の研究開発加速とそのためのエコシステム・制度の構築
2.開発・治験:検査・診断・治療が可能な医療機関・医療従事者や医薬品・開発品情報へのアクセス改善
3.診断:専門人材の育成機会拡充・持続可能性の担保
4.治療・予後管理:資金調達・活用手段の多様化・柔軟性確保
5.疾患啓発「病気と共に不自由なく生きることができる社会」の実現に向けたルール・世論形成
製薬協は、「希少疾患と共に生きる患者や家族がより暮らしやすい社会の実現を目指し、調査結果で特定された医療従事者を取り巻く多様な課題に対して、ステークホルダーと連携し解決に向けて取り組んでいきたい」と、述べている。
▼関連リンク
・日本製薬工業協会(製薬協) ニュースリリース