IL-23受容体との相互作用を阻害する「ヒト化抗ヒトIL23p19モノクローナル抗体製剤」
日本イーライリリー株式会社は11月12日、米国リリーが、炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎とクローン病を対象にミリキズマブ(製品名:オンボー)を複数年にわたって投与した2つの第3相試験結果を発表、投与を受けた患者が安定した長期寛解を示したことを報告したと発表した。これら2つの臨床試験(中等症~重症の活動性潰瘍性大腸炎におけるLUCENT-3試験と中等症~重症の活動期クローン病におけるVIVID-2試験)の結果は、2024年10月25~30日に米国フィラデルフィアで開催される米国消化器病学会(ACG)で発表された。
ミリキズマブは、IL-23のp19サブユニットに選択的に結合し、IL-23受容体との相互作用を阻害するヒト化抗ヒトIL23p19モノクローナル抗体製剤。IL-23経路の過剰な活性化による炎症は、潰瘍性大腸炎とクローン病の発症機序において重要な役割を果たす。
潰瘍性大腸炎とクローン病に由来する炎症は便意切迫感などから健康関連の生活の質(QOL)を低下させ、放置すると不可逆的な合併症を招く可能性がある。同剤は米国で、中等症~重症の活動性潰瘍性大腸炎の成人患者の治療薬として承認されており、中等症~重症の活動期クローン病の治療薬としては、食品医薬品局(FDA)による審査が進行中だ。
潰瘍性大腸炎、52週時に臨床的寛解を達成した患者70%が長期臨床的寛解を維持
ミリキズマブの潰瘍性大腸炎プログラムでは、生物学的製剤の使用経験のない患者と、生物学的製剤が効果不十分であった患者を対象として、中等症~重症の活動性潰瘍性大腸炎の成人患者における安全性と有効性を検討する第3相臨床試験を2つ実施した。
導入療法を検討した「LUCENT-1試験」と維持療法を検討した「LUCENT-2試験」は、いずれも無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、ステロイド薬、免疫調整薬(6-メルカプトプリンおよびアザチオプリン)、生物学的製剤(TNF阻害薬、ベドリズマブ)またはヤヌスキナーゼ阻害薬(JAK阻害薬、トファシチニブ)による治療で効果不十分、二次無効あるいは不耐となった患者を登録した。LUCENT-1試験の参加者の41%は1剤以上の生物学的製剤が効果不十分だった患者、3%はJAK阻害薬が効果不十分だった患者、57%は生物学的製剤とJAK阻害薬の投与歴がない患者だった。
「LUCENT-3試験」は、LUCENT-1試験とLUCENT-2試験から継続する長期の第3相試験で、潰瘍性大腸炎患者におけるミリキズマブの有効性と安全性を最長3年間にわたり検討する現在進行中の試験。LUCENT-2試験の1年時点での評価において臨床的寛解を達成した患者では、その後2年間(試験全体では最長3年間)でobserved case解析の結果、81%の患者が長期にわたる臨床的寛解を達成、82%の患者が長期にわたる内視鏡的寛解を達成、72%の患者に粘膜治癒がみられ、79%の患者がステロイドフリーの臨床的寛解を達成、便意切迫感の症状スコアにおいて臨床上意義のある低下の持続を示した(-4.72)。
投与中止例と欠測データをmNRI法で補完する解析では、52週時にミリキズマブによる臨床的寛解がみられた患者のうち、70%は152週時にも長期臨床的寛解を維持し、主な有効性評価項目(内視鏡的寛解、組織学的および内視鏡的粘膜寛解、ステロイドフリー寛解、臨床的改善等)の達成率は63~85%だった。
LUCENT-3試験でミリキズマブの投与を受けた患者のうち、7.4%に重篤な有害事象が認められ、5.3%が有害事象のため治療を中止した。中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎の患者における長期安全性プロファイルは、これまでのミリキズマブの安全性プロファイルと同様だった。
クローン病、156週時に臨床的改善/寛解を達成した患者が70%以上
ミリキズマブのクローン病プログラムでは、中等症~重症の活動期クローン病の成人患者を対象に、ミリキズマブの安全性と有効性をプラセボおよび実薬対照(ウステキヌマブ)と比較する第3相無作為化二重盲検VIVID-1試験を実施。最初に割り付けられた治療を最後まで継続するtreat-through試験として行われた。ミリキズマブ群に割り付けられた患者は0、4、8週時に1回900mgの点滴静注を、12~52週の間は4週ごとに1回300mgの皮下投与を受けた。同試験に参加したミリキズマブ群とプラセボ群の患者の49%は、生物学的製剤治療が無効の患者だった。
「SERENITY試験」は、第2相多施設共同無作為化並行比較二重盲検プラセボ対照試験で、中等症~重症の活動期クローン病の患者を対象としてミリキズマブの安全性と有効性を評価した。ベースライン時点で被験者を2:1:1:2の比で無作為化し、4群(プラセボ群、ミリキズマブ200mg群、ミリキズマブ600mg群、ミリキズマブ1,000mg群)に割り付けた。主要評価項目は、12週時に内視鏡所見に基づくSES-CD(Simple Endoscopic Score for Crohn’s Disease)スコアがベースラインから50%以上低下した患者の割合として求める内視鏡的改善達成率とした。2019年5月、リリーは第2相試験の結果を発表し、12週時に臨床的改善および寛解を達成した中等症~重症のクローン病患者の割合は、ミリキズマブ投与群方がプラセボ投与群より高いことを示した。12週時の全般的な安全性プロファイルは、潰瘍性大腸炎患者におけるミリキズマブやIL23p19クラス薬剤で認めた安全性プロファイルと同様だった。
「VIVID-2試験(SERENITY試験とVIVID-1試験の第3相長期継続試験で現在実施中)」は、クローン病患者を対象に最長で5年間の有効性と安全性を評価する試験。observed case 解析を用いた結果、96%の患者がクローン病活動指数(CDAI)による臨床的改善を達成し、87%がCDAIによる臨床的寛解を達成、76%が内視鏡的改善を達成、54%が内視鏡的寛解を達成したことがわかった。
投与中止例と欠測データをmNRI法で補完する解析では、156週時に内視鏡的改善と内視鏡的寛解を認めた患者の割合はそれぞれ61%および44%だった。また、156週時に臨床的改善と臨床的寛解を認めた患者の割合は、それぞれ79%および72%だった。
また、VIVID-2長期継続試験に移行した患者のうち、8.5%に重篤な有害事象が認められ、1.9%が有害事象のため治療を中止した。中等症~重症の活動期クローン病の患者における長期安全性プロファイルは、これまでのミリキズマブの安全性プロファイルと同様だったとしている。
ミリキズマブ、腸の治癒の長期間維持・症状の改善に有効
マウントサイナイ・アイカーン医科大学医学部Dr. Burrill B. Crohn医学部教授で、Dr. Henry D. Janowitz消化器科チーフのBruce Sands医師は同結果について「今回の複数年にわたるデータは、ミリキズマブが腸の治癒を長期間維持し、患者さんの生活の妨げとなる症状の改善をもたらすことを明らかにしている」と、述べている。
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