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うつ病発症リスクと文脈記憶形成の不確かさの関係、詳細な機構を解明-富山大ほか

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2024年11月13日 AM09:00

うつ病発症に関わる文脈記憶の想起困難、神経生物学的なメカニズムは未解明

富山大学は10月31日、うつ病の発症リスクを持つ人では、ネガティブな出来事を経験したときに、その出来事の全体像(文脈情報)が正しく記憶されていないこと、このような記憶形成の失敗は、ネガティブな情報に注意を惹き付けられているときの扁桃体と腹内側前頭前皮質(vmPFC)との間の機能結合と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術研究部医学系の袴田優子教授、北里大学医療衛生学部の田ヶ谷浩邦教授、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の堀弘明部長、、京都大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychoneuroendocrinology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

うつ病は、一般人口の約5分の1が生涯に一度は経験するといわれ、再発しやすく、患者自身の苦痛はもちろん大きな社会経済的損失を伴う精神障害である。しばしば自殺にも結びつき、治療および発症・再発予防が喫緊の課題となっている。

うつ病の発症および再発には、「自伝的記憶の過剰一般化」(自身が経験した出来事の文脈情報について曖昧にしか思い出せなくなる現象)と呼ばれる記憶現象が密接に関与することが指摘されている。また、うつ病では、扁桃体やvmPFCと呼ばれる気分・感情の生起や制御に関連する脳領域の機能不全や、ストレスホルモン・コルチゾールの分泌過多が報告されてきた。しかし、自伝的記憶の過剰一般化によって示されるような文脈記憶の想起困難が、どのように神経生物学的に生じるのかというメカニズムについては、これまで明らかではなかった。

文脈記憶形成不全が起こる機序、扁桃体の神経結合やコルチゾールとの関係は?

そこで今回の研究は、自伝的記憶の過剰一般化が生じる背景に、何か出来事を経験した際にネガティブな事柄に注意を惹きつけられてしまうために、それ以外の情報、すなわち出来事の全体的な文脈情報を正しく記憶できていないのではないかという仮説を立て、これを検証した。さらに、こうした文脈記憶形成不全の神経生物学的機序として、扁桃体の神経結合やコルチゾールとどのように関係するのかについても調査した。

120人対象にネガティブな対人刺激に対する記憶成績や課題中の扁桃体の機能結合を測定

この研究では、うつ病の発症リスクを持つ人を含む、合計120人の成人を対象とした。

ネガティブな出来事の文脈記憶を測定するために、ネガティブ(またはニュートラル)な対人刺激がランダムに出現するマイクロイベントを呈示する実験課題を作成し、そこに同時存在していた視知覚・空間・時間文脈情報に対する記憶成績を測定した。文脈記憶課題成績とコルチゾール分泌量は、符号化(記憶形成)時と24時間経過後に2回測定された。自伝的記憶の過剰一般化は、自伝的記憶検査により測定した。

さらに当事者の意識を伴わずに生じるネガティブな刺激に対する選択的注意の検出段階を捉えるために、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いてネガティブな対人刺激による注意干渉課題中の扁桃体の機能結合も測定した。これらの変数間の関係を統合的に調べるため、調整媒介解析を行った。

刺激出現時に扁桃体とvmPFC間の機能結合減弱、特に視知覚詳細が記憶されないと判明

結果として、うつ病の発症リスクを持つ人では、そうでない人と比べて、ネガティブな(対 ニュートラル)対人刺激が出現しているときの文脈情報(特に視知覚詳細)を正しく符号化できていないことを見出した。この文脈符号化成績の低さは、ネガティブ(対 ニュートラル)な対人刺激から注意干渉を受けているときの扁桃体―vmPFC間の機能結合の減弱と関連していた。

コルチゾール分泌多いほど、24時間後の時間文脈の想起成績は低下傾向

加えて、うつ病の発症リスクを持つ人では、そうでない人と比べて、24時間経過した後、ネガティブ(対 ニュートラル)な対人刺激が出現した際の前後の時間文脈を詳しく思い出せず、またストレスホルモン・コルチゾールの総分泌量が多いほど、この時間文脈に対する想起成績が低下する傾向が見られた。

さらに、こうした文脈記憶の符号化の失敗は、自伝的記憶の過剰一般化を部分的に媒介して、うつ病の発症リスクの有無を予測説明することを見出した。なお扁桃体―vmPFC間の機能結合とコルチゾールを統合的に考慮した調整媒介解析では、統計的に有意差には至らなかったが、―vmPFC間の機能結合が、文脈記憶課題における符号化成績の低下から自伝的記憶の過剰一般化へと至る経路を調整する傾向も見られ、今後のさらなる研究の必要性が示された。

従来の治療に反応しにくいうつ病への治療・予防法につながると期待

今回の研究の特色は、視知覚的な文脈情報の符号化困難が、自伝的記憶の過剰一般化を介して、うつ病の発症リスクを高めうることを世界で初めて示唆した点にある。また、符号化の低下は、ネガティブ(対 ニュートラル)な対人刺激による注意干渉中の扁桃体―vmPFCの機能結合の弱化と関連していたことから、出来事のなかに存在するネガティブな刺激に注意を惹きつけられることにより、全体的な文脈情報の符号化に失敗している可能性が示唆された。コルチゾールは符号化成績低下には影響していなかったが24時間経過後の時間文脈の想起成績低下と関連しており、記憶の固定化過程において遅延性効果を発動させる可能性が考えられ、今後のさらなる研究が期待される。

従来の心理治療では、ネガティブな出来事の記憶に苦しむ患者に対して、出来事全体に関する詳細な想起を促し、その意味づけ・解釈を再構築するようなアプローチが取られてきた。しかし、ネガティブな事柄を語ることはできても、その出来事が起きた全体的な文脈を「思い出せない」と訴える患者も少なからず存在し、従来のアプローチの適用が困難なケースもある。「今回の知見は、符号化段階で文脈記憶形成を促進することの重要性を示唆しており、こうした介入手法は従来の心理治療には反応しにくいうつ病に対する新たな治療および予防法の一つとなることが期待される」と、研究グループは述べている。

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