統合失調症・双極症・うつ病の大脳皮質における疾患特異的な神経細胞の変化は不明
金沢大学は10月31日、ヒトの死後脳を用いた研究を行い、統合失調症・双極症(双極性障害)・うつ病の大脳皮質において、各疾患に特異的な神経細胞の変化を解明することに成功したと発表した。この研究は、同大附属病院神経科精神科の奥田丈士助教(医薬保健学総合研究科医学専攻博士課程在学中)、同大医薬保健研究域医学系精神行動科学の橋本隆紀協力研究員(北陸病院副院長)、和歌山県立医科大学の紀本創兵教授、米国ピッツバーグ大学精神医学部のDavid A. Lewis教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Psychological Medicine」オンライン版に掲載されている。
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統合失調症・双極症・うつ病は、成人が罹患する代表的な精神疾患だ。これらの疾患では問題解決や学習などの認知機能に障害が認められ、患者の社会復帰を妨げ、症状の再燃に関与することが知られているが、有効な治療法は確立されていない。
認知機能に重要な役割を有する大脳皮質には、興奮性の錐体細胞とともに、γアミノ酪酸(GABA)と呼ばれる抑制性の神経伝達物質を含有する抑制性の神経細胞(GABA細胞)が存在する。GABA細胞は、その形態および機能の特徴から大きく3つのグループに分けられ、それぞれがパルブアルブミン、ソマトスタチン、カルレチニンという分子を特異的に発現している。統合失調症では背外側前頭前野と呼ばれる認知機能に特に重要な領域において、パルブアルブミン細胞とソマトスタチン細胞に変化が多く報告され、認知機能障害に関与することが想定されてきた。一方、双極症やうつ病の背外側前頭前野では、GABA細胞について再現性のある所見が乏しく、GABA細胞の変化について3つの疾患の間での直接比較した研究も行われていなかった。
ヒト死後脳で、GABA細胞の3つのグループに特異的な分子の発現量を解析
今回の研究は、死後に遺族の同意により提供された脳が保存されているピッツバーグ大学死後脳バンクを利用して行われた。性別、年齢などの条件が等しい健常者・統合失調症患者・双極症患者・うつ病患者を4人1組として、40組(計160人)の死後脳から背外側前頭前野を切り出し、GABA細胞の3つのグループに特異的に発現する分子[パルブアルブミン、ソマトスタチン、KCNS3カリウムチャネルサブユニット、カルレチニン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、GABA合成酵素(GAD67)]の発現量をリアルタイムPCR法で解析した。GAD67は全てのGABA細胞に、KCNS3はパルブアルブミン細胞に、VIPはカルレチニン細胞に特異的に発現している。
3疾患それぞれに特異的な神経細胞変化の解明に成功
研究の結果 健常者と比べ、統合失調症患者ではパルブアルブミン、ソマトスタチンに加えてカルレチニン細胞におけるVIPの発現が低下し、双極症患者ではパルブアルブミン、うつ病患者ではソマトスタチンに低下が認められた。
以上の結果から、統合失調症患者ではより広汎なグループのGABA細胞が変化していること、双極症やうつ病の患者では、それぞれパルブアルブミン細胞とソマトスタチン細胞に限局した変化が存在することが示唆された。
背外側前頭前野の特徴的なGABA細胞変化は、各疾患の原因となるメカニズムを反映
さらに、統合失調症患者の一部には躁症状やうつ症状などの気分症状が認められ、双極症やうつ病の患者の一部には幻覚や妄想などの精神病症状が認められることが知られている。そこで、各疾患においてこれらの症状の有無により患者を2群に分けて、分子発現を比較したが、いずれの疾患でも分子発現に両群間で差は認められなかった。
このことから、背外側前頭前野に見られる各疾患に特徴的なGABA細胞の変化は、表層的な症状ではなく、各疾患の原因となるメカニズムを反映していることが考えられた。
3つの疾患で認知機能障害が生じるメカニズムの解明・有効な治療法開発への活用に期待
今回の研究で明らかになった統合失調症・双極症・うつ病のそれぞれに特異的な神経細胞の変化のパターンは、各疾患において認知機能障害が生じるメカニズムの解明およびそれに対する有効な治療法の開発として役立つことが期待される。
「同知見は将来、3つの疾患のそれぞれで認知機能障害が生じるメカニズムの解明および有効な治療法の開発に活用されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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