低BMIの糖尿病患者へのSGLT2阻害薬効果、十分な知見がなかった
京都大学は10月30日、糖尿病薬SGLT2阻害薬の心血管病リスクに対する有効性が、非肥満糖尿病患者において減弱する可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の森雄一郎博士課程学生、井上浩輔准教授、近藤尚己教授、福間真悟教授、柳田素子教授、ボストン大学の古村俊昌氏、ハーバード大学の八木隆一郎氏、安富元彦氏、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のO. Kenrik Duru教授、ワシントン大学のKatherine R. Tuttle教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cardiovascular Diabetology」に掲載されている。
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SGLT2阻害薬は2010年代に承認された比較的新しい糖尿病薬である。既存の各種の糖尿病薬と比べて心血管病予防効果を示すエビデンスが蓄積しており、近年、第一選択薬の一つとして広く使用されるようになっている。また、複数の臨床試験で心血管予後を改善することが示されている。一方、これまでの研究は平均BMI30前後の患者を対象としており、BMIの低い糖尿病患者への効果については十分な知見がなかった。
BMIの違いでSGLT2阻害薬の心血管予後改善効果に差はあるか?
そこで、今回の研究では、全国健康保険協会の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約560万人分)を用いて、BMIの違いによってSGLT2阻害薬の心血管予後改善効果に差があるかを調べた。SGLT2阻害薬を使用する群と、比較対照としてDPP4阻害薬を使用する群に分けて検討した。対象となった患者は約28万人、そのうち8万5,000人が非肥満糖尿病(BMI<25kg/m2)であった。
BMI25以上で心血管イベント8%減も、低BMI患者では効果が示されず
平均27.5か月の追跡期間中に8,000人(約3%)に心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞、心不全、死亡)が発生し、SGLT2阻害薬の心血管予後改善効果は、BMIによって異なることがわかった。具体的には、BMIが25以上の患者では心血管イベントが8%程度減少する効果が認められたが、BMIが低い患者では、その効果が示されなかった。この結果から、BMIの低い糖尿病患者では、BMIの高い患者と比べて、SGLT2阻害薬による心血管予後の改善効果が弱まる可能性が示唆された。
非肥満糖尿病患者へのSGLT2阻害薬、さらなる効果検証が必要
すでに糖尿病の第一選択薬のひとつとして広く使用されているSGLT2阻害薬が、肥満の有無によって効果が異なる可能性が明らかになった。多くの臨床試験がSGLT2阻害薬の有効性を示してきたにも関わらず、非肥満糖尿病の患者への効果は、これらの臨床試験であまり検証されていなかった。しかし、SGLT2阻害薬が、これまでの糖尿病薬と比較し心血管病予防作用が期待できる薬剤であることは事実である。非肥満糖尿病患者の中でも、具体的にどのような人には注意が必要で、どのような人にはやはり効果が期待できるのか、さらなる検証が必要である。また勤労世代を対象とした同研究は、まだ心血管病を発症していない、リスクステージの早い患者が主な対象である。すでに心血管病を発症した非肥満糖尿病患者への効果についても、さらなる研究が必要である。これらの課題に対し、今後、より詳細かつ発展的な検証を計画している、と研究グループは述べている。
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