脳出血を発症することも多いCADASIL、rt-PA静注療法の安全性は未確認
国立循環器病研究センターは10月31日、rt-PA静注療法がCADASILに関連する急性期脳梗塞においても安全かつ有効である可能性を見出したと発表した。この研究は、同センター脳神経内科の猪原匡史部長、齊藤聡医長、国立台湾大学病院のChih-Hao Chen教授、Sung-Chun Tang教授、台北栄民総医院のYi-Chu Liao教授、Yi-Chung Lee教授、済州大学病院のJoong-Goo Kim教授、Jay Chol Choi教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」にオンライン掲載されている。
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CADASILは、NOTCH3遺伝子の病的バリアントが原因となり、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で発症し、高い確率で脳梗塞を発症する遺伝性脳小血管病である(厚生労働省指定難病124)。日本国内には1,200人ほどのCADASIL患者が存在すると推定されてきたが、最近の研究の進歩の結果、数万人以上のCADASIL患者が日本国内に存在する可能性が指摘されるようになった。
2024年9月末現在、一般的な脳梗塞の原因である脳血管の急性閉塞に対する治療法として、脳血管に形成された血栓を物理的に除去することを目的とした血管内血栓回収療法と、血栓を溶かす作用を有するrt-PA静注療法が、日本国内で広く行われている。
しかしながら、CADASIL患者に生じた脳梗塞に限定すると、確実な有効性が示された治療法はない。脳梗塞だけでなく、脳出血を発症することも多いCADASILでは、これまで大規模研究において、rt-PA静注療法の有効性と安全性が示されておらず、欧州のガイドラインでは、CADASIL患者に対してrt-PA静注療法を行うべきではない「Patients with CADASIL should not receive thrombolysis」と記載されている。そのため、医師はrt-PA静注療法に慎重にならざるを得ない現状があった。
過去に脳梗塞発症したCADASIL患者12人を抽出、rt-PA静注療法の有効性を評価
研究グループは、世界最大のCADASILレジストリー(CADASIL患者の重要な臨床情報を網羅的に収集するデータベース、CADASIL Registry in East Asia[CADREA])の構築を進めている。国立循環器病研究センター、国立台湾大学病院、台北栄民総医院、済州大学病院は、いずれも100人以上のCADASIL患者が通院している希少な施設であり、日本、台湾、韓国の各国において、CADASIL診療の拠点となっている病院である。今回研究グループは、これら4病院に通院中の609人のCADASIL患者から、過去に脳梗塞を発症し、rt-PA静注療法が行われた12人を抽出し、rt-PA静注療法の有効性と安全性を評価した。
治療90日後12人中10人が日常生活に支障ない状態まで回復、脳出血合併なし
rt-PA静注療法を施行された12人中10人が、治療90日後の時点で、日常生活に支障がない状態(modified Rankin Scaleスコア0または1)まで回復していた。また、脳出血の合併は認められなかった。すなわち、rt-PA静注療法が総じて有効であったことを示している。
今後、CADASIL患者1,000人以上での追跡調査を予定
今回の結果は、CADASIL患者におけるrt-PA静注療法の安全性を支持する新たなエビデンスを提供するものだが、解析症例数が少数であること、後方視的解析であることなどの点により慎重に解釈する必要がある。また、CADASIL患者は脳出血の既往を有することも多いが、「非外傷性頭蓋内出血(外傷以外の要因によって発症した、脳内出血やくも膜下出血、硬膜下血腫など)」はrt-PA静注療法の禁忌事項に該当するため、そのような場合、rt-PA静注療法の対象とはならない。
「研究グループは、世界最大のCADASIL患者を対象とした観察研究:CADREAを2023年より開始しており、1,000人以上のCADASIL患者の追跡調査を予定している。今後もCADASIL患者への最適な医療の提供を目指し、CADREA研究から今回のような臨床エビデンスの創出を目指していく予定だ」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース