ヒトの慢性腎臓病発症・重症化に、原尿中リン濃度上昇が関与するのかは不明だった
筑波大学は10月30日、慢性腎臓病の早期段階の集団において、尿検査と血液検査項目から推定した「原尿中リン濃度」が高い人は、尿細管障害マーカーが高値を示すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系の小﨑恵生助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Renal Nutrition」に掲載されている。
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日本における慢性腎臓病の患者数は約1450万人と推計されている。慢性腎臓病は心血管疾患の発症リスクを高めることに加え、重症化すると人工透析や生体腎移植などの腎代替療法への移行が余儀なくされることから、その発症・重症化の予防策を確立することが重要だ。
近年、マウスを対象にした研究において、リンを多く含む食事を摂取すると腎臓の近位尿細管における原尿中リン濃度が上昇し、尿細管で微小なリン酸カルシウムの結晶が析出して、尿細管障害や腎機能低下を誘導することが報告されている。このことから、原尿中リン濃度の上昇が慢性腎臓病の発症や重症化の一つの原因となる可能性が示されているが、ヒトにおいても同様の現象が認められるかを検証する必要がある。
推定原尿中リン濃度、慢性腎臓病のステージ進行とともに上昇する傾向
研究グループは今回、慢性腎臓病のステージがG2〜G4に該当する、茨城県県南地区の地域情報誌および筑波大学附属病院腎臓内科を通じて募集した45歳以上の中高齢者218人を対象に横断研究を実施した。対象者は朝食を控えた状態で、午前中に採尿や採血・血圧測定・腎臓超音波検査などの身体検査を実施した。推定原尿中リン濃度は先行研究による計算式[推定原尿中リン濃度=(尿中リン濃度/尿中クレアチニン濃度)×血中クレアチニン濃度×3.33]に基づき推定した。その他にも、リン排泄ホルモンである線維芽細胞増殖因子23(FGF23)の血中濃度、尿細管障害マーカーとして尿中β2マイクログロブリン濃度や尿中L型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)濃度などを測定した。
解析の結果、慢性腎臓病のステージがG2からG4へ進行するにつれて、推定原尿中リン濃度、血中FGF23濃度、尿細管障害マーカーが上昇する傾向が認められた。一方で、血中リン濃度の上昇は見られなかった。
推定原尿中リン濃度の上昇は尿細管障害マーカーの上昇と関連
また、推定原尿中リン濃度と、血中FGF23濃度および尿細管障害マーカーの関連性を調査したところ、推定原尿中リン濃度が特定の閾値を超えると血中FGF23濃度や尿細管障害マーカーが上昇することがわかった。特定の閾値を超えた研究対象者に限定した多変量解析においては、推定原尿中リン濃度は、血中FGF23濃度と尿中β2マイクログロブリン濃度を規定することが示された。
以上の結果から、血中リン濃度の上昇が認められない慢性腎臓病のステージG2~G4の集団においても、推定原尿中リン濃度の上昇は尿細管障害マーカーの上昇と関連することが示唆された。
リンに着目した生活習慣改善による慢性腎臓病の発症・重症化予防に期待
今回の研究結果により、慢性腎臓病において、推定原尿中リン濃度の上昇と尿細管障害マーカーの上昇が関連することが示唆された。
「今後さらに、時間経過を加味した実験デザインによる検証や、リン排泄量を減らす介入等の有効性を検証することで、リンに着目した生活習慣改善による慢性腎臓病の発症・重症化を予防する知見の創出に取り組む」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース