術野確保、助手の技量に大きく左右されることが課題
大阪公立大学は10月31日、医療機器への使用が可能なプラスチック素材を用いた術野展開プレートを中小企業との連携により開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科心臓血管外科学の柴田利彦教授、高橋洋介准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Innovations」のオンライン速報版に掲載されている。なお、同プレートは現在特許出願中で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から医療器機としてすでに承認を受けている。
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ロボット手術では、執刀医はコンソールと呼ばれる場所に座ってロボットアームを遠隔操作しており、患者からは少し離れた位置にいる。手術において良好な術野を確保することは、手術のやりやすさに大きく寄与する。しかし、ロボット用アームに取り付ける機器だけでは心臓内での良好な術野展開ができないため、患者の横に立つベッドサイド外科医による展開補助が必要だ。また、ロボット手術では小さな創部からの補助展開操作を要するため、ベッドサイド外科医の技量に大きく左右される。この問題点を解決するため、研究グループは助手の手助けを限りなく少なくできる術野展開プレートを開発した。
医療グレードのPEEKを用いて開発、小さく丸めて心臓内に挿入可
通常は、心臓内部に挿入した器具で術部を外側に引っ張ることで、手術する部位を見やすく展開する。この発想を変えて、内部から拡張する器具によって術野を確保するというのがこの器機(展開プレート)の概念である。特徴としては、板状プレートの端にあるスリットに、もう一方の端を外側から内側に通し円形状にする。これを小さく丸めて心臓内に挿入すると、プレート固有の弾力性により自己拡張が可能になり、自動的に円周方向に広がり手術野が確保できる。これにより、今まで見えにくかった心室や心房内の構造物を容易に見ることができる。素材には、柔軟性と剛性とを併せ持つ、医療グレードのPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を用いている。また、構造が非常にシンプルで再利用も可能だ。
手術時間の短縮や出血の減少への寄与も期待
同大医学部附属病院では2018年から200例以上のロボット心臓手術を行っており、全国の大学病院でトップの累積手術数となっている。また、研究グループは、中小企業が参加する一般社団法人ものづくり医療コンソーシアムに属する企業との共同開発を通して、これまで医療で使用するいくつかの製品を生み出してきており、同器機もその一環で生み出されたものだ。ロボット心臓手術は、現在日本で年間1,000例程度行われており、今後も増加することが予想される。
「これからロボット心臓手術を始める施設においても、助手の技量に左右されず、心臓手術を円滑かつ安全に進めるためにも大変有用と考えられる。心臓手術は心停止下で行われるため、手術時間の短縮や出血の減少への寄与も期待される。狭い術野を確保することに優れているため、心臓手術のみならず口腔外科、耳鼻咽喉科など他分野でも応用できる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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