抗血栓薬「服用なし」と重症リスクを比較した研究は無かった
国立循環器病研究センターは10月25日、日本脳卒中データバンク(Japan Stroke Data Bank:JSDB)の登録情報を用いて、抗血栓薬の脳出血への影響を解明したと発表した。この研究は、同研究センター脳血管内科の新垣慶人医師、吉村壮平医長、和田晋一医師、古賀政利部長、豊田一則副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Stroke」オンライン版に掲載されている。
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抗血栓薬は心筋梗塞や脳梗塞などの血栓による病気を予防するために広く使用されているが、抗血栓薬使用者は脳出血の発症リスクが高いことが報告されている。しかし、抗血栓薬使用者が脳出血を発症した場合、抗血栓薬を内服していなかった場合と比較して、重症化リスクが高いかどうかはまだ明らかになっていなかった。特に、新しいタイプの抗凝固薬である直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の使用者が近年急速に普及している中、適切な抗血栓薬使用のため、抗血栓薬の脳出血への影響を解明することが必要だ。
抗血栓薬内服なし/ワルファリン/DOAC/抗血小板薬/4群で脳出血の重症度を評価
そこで今回研究グループは、国内の複数の医療機関が協力して行った大規模なレジストリデータを基に、抗血栓薬の脳出血への影響を検証した。研究の対象は、2017~2020年までJSDBに登録された急性期脳出血例とした。抗血栓薬を内服していない例、ワルファリン使用例、DOAC使用例、抗血小板薬使用例の4群に分類。脳出血の重症度を評価する主要項目を、(1)入院時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)5、(2)退院時のmodified Rankin Scale(mRS)が5または6である割合6、(3)入院中の死亡率とした。急性期脳出血9,810例(平均年齢70±15歳、女性43%)のうち、抗血栓薬を内服していない例(7,560例、平均年齢68±15歳、女性45%)、ワルファリン使用例(389例、平均年齢76±10歳、女性36%)、DOAC使用例(571例、平均年齢79±9歳、女性39%)、抗血小板薬使用例(1,290例、平均年齢76±11歳、女性41%)が今回の研究対象となった。
DOAC・抗血小板薬使用、内服なしと有意差見られず
全ての評価項目において、抗血栓薬を内服していない例と比較して、ワルファリン使用例は統計学的に重症化の傾向が見られた((1)入院時のNIHSS:調整リスク比1.09[95%信頼区間1.06-1.13]、(2)退院時のmRSが5-6:調整オッズ比1.90[95%信頼区間1.28-2.81]、(3)入院中の死亡率:調整オッズ比1.71[95%信頼区間1.11-2.65]、抗血栓薬を内服していない例を基準とした)。一方、DOAC使用例と抗血小板薬使用例は、全ての評価項目において、抗血栓薬を内服していない例と統計学的に有意な差が見られなかった。
重症化傾向のワルファリン使用も、中和剤の適切使用で入院中死亡率が悪化しない可能性
今回、国内の複数の医療機関が協力して行った、大規模なレジストリデータであるJSDBを使用して、詳細な解析を行った結果、ワルファリン使用者が脳出血を発症した際には重症化リスクが高いことが明らかとなった。一方、DOACと抗血小板薬では重症化の傾向は見られなかった。同研究結果から、適切な脳出血治療を行えば、DOACや抗血小板薬を使用していることが重症化につながらない可能性が示された。また、ワルファリン使用例においても、中和剤を適切に使用すれば、入院中の死亡率が悪化しない可能性も示された。
今回の研究結果から、抗血栓薬の使用に対する不安が軽減され、心筋梗塞や脳梗塞といった循環器疾患の治療において、より効果的な治療戦略が進められることが期待される。DOACに対する中和剤も令和4年から日本で使用できるようになり、抗血栓薬が必要な患者でも脳出血などの副作用に対して迅速に対応でき、安全性が高まっている。今後も、抗血栓薬の使用におけるリスク管理が進み、循環器病治療がより効果的に進展すると考えられる、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース