AYA世代の乳がん患者は、他の年齢層と比較し予後不良
横浜市立大学は10月28日、複数の大規模データベースを用いてさまざまながん特異的情報伝達経路の活性度を腫瘤の遺伝子発現パターンから同定し比較することで、若年(AYA:Adolescent and young adult、15~39歳)世代の乳がんが他年齢層の乳がんと異なる生物学的特徴を有することを証明したと発表した。この研究は、同大医学部消化器・腫瘍外科学の押正徳助教、山田顕光准教授,遠藤格主任教授、米国ロズウェルパーク総合がんセンターの高部和明主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「ESMO Open」オンライン版に掲載されている。
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AYA世代の若年乳がん患者の予後は、他の年齢層と比較し不良であるという報告が多いにも関わらず、その臨床学的・生物学的特徴は依然として一定の見解が得られていない。その背景には、若年世代の乳がん患者が希少であることからこの年齢層に対する研究が発展せず、結果的に大多数を占める年齢層に対する治療薬・治療方針を踏襲しているのが現状だ。
HR陽性乳がんを対象に、遺伝子発現データを用いて年齢別に分析
そこで研究グループは、若年世代乳がん、特にホルモン受容体(HR)陽性乳がんを対象に遺伝子発現データを用いてがんの生物学的特徴の探究を行った。特に乳がんで重要となるホルモン状態の背景を考慮し、40歳未満の若年層をAYAグループ、40~55歳未満の閉経前グループ、55~65歳未満の閉経後グループ、65歳以上の高齢者グループの4群間で計5,000人以上の国外乳がんサンプルコホートを用いて比較検討を行った。
AYA世代は、他の年齢層と比べ複数のがん増殖・促進伝達経路が活性化
その結果、4つのことが明らかになった。1)AYA世代ホルモン受容体陽性乳がんは他の年齢層と比較し予後が有意に不良である、2)AYA世代乳がんにおいて複数の細胞増殖伝達経路、およびその他のがん促進伝達経路が他のいずれの年齢グループよりも高い活性状態にある、3)遺伝性乳がん卵巣がんに深く関与するDNA修復(repair signaling)、およびBRCAnessにおいても高い状態である、4)他年齢層と比較し特異的ないくつかの遺伝子変異の割合が有意に異なる。
若年世代乳がんの予後予測や治療戦略の向上に期待
今回の研究により、AYA世代のホルモン受容体陽性乳がんは他年代の乳がんと比較し生物学的特徴が異なり、それが予後に関与している可能性が示された。「この生物学的特徴を理解し、治療戦略の最適化・新規薬剤の開発を推進していくことが期待される。また、治療期間を含め、働き盛りの年代である若年世代乳がん患者の予後改善や、副作用回避による生活の質の向上は、女性の社会進出が進む現代において、社会全体の生産性向上に寄与することが期待される」と、研究グループ述べている。
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