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膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか

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2024年10月31日 AM09:30

膠原病の病因や分子病態は未解明、特異的な治療法も未確立

京都府立医科大学は10月25日、膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科免疫内科学の藤井渉病院助教、同・平野愛子研修員、同・阪下暁フューチャーステップ研究員、同・川人豊病院教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

関節リウマチ、・皮膚筋炎、、全身性強皮症などの膠原病は、しばしば進行性・難治性の間質性肺疾患を合併し、膠原病性間質性肺疾患(Connective tissue disease-associated interstitial lung disease:CTD-ILD)と呼ばれるが、その病因や分子病態については十分解明されておらず、特異的な治療法も確立されていない。CTD-ILDの難治性の背景には疾患間、患者間および病態に関わる免疫細胞の不均一性があると考えられている。また、臨床現場では主に画像検査および病理所見を元に診療されることが多いが、画像検査では自己免疫疾患である膠原病の免疫異常まではわからず、病理検査はその侵襲性の高さから全症例に行うことは困難だ。

一方、気管支内視鏡検査下に採取できる気管支肺胞洗浄液()は比較的低い侵襲度で行うことができ、細菌学的検査やがん細胞の検出に有用であるほか、免疫細胞の解析を行うことができるが、膠原病性肺疾患診療における気管支肺胞洗浄液の意義は未確立だった。

気管支肺胞洗浄液中では関節リウマチで好中球、シェーグレンでB細胞・マスト細胞増加

近年発展した研究手法であるシングルセルRNA-seqは、一細胞毎の全遺伝情報(トランスクリプトーム)を得ることが可能で、この手法によりCTD-ILD患者由来の臨床検体を詳細に解析することで免疫細胞の不均一性および基礎疾患毎の分子病態の特徴を解き明かすことが期待される。今回の研究は、CTD-ILDの気管支肺胞洗浄液をシングルセルRNA-seqで解析した世界初の研究となる。

研究グループは、マイクロウェルを用いたSeq-Wellという手法でシングルセルRNA-seqを行った。まず、血液および気管支肺胞洗浄液のシングルセルRNA-seqを行い、遺伝子発現パターンに基づいてアノテーション(細胞種の同定)を行った。これを基に膠原病の免疫細胞の比率を比較したところ、血液中では有意な差を認めなかったが、気管支肺胞洗浄液中では関節リウマチでは好中球、シェーグレン症候群ではB細胞とマスト細胞が増加する傾向を認めた。

皮膚筋炎・関節リウマチ・、それぞれ異なる遺伝子群の発現が亢進

さらに各免疫細胞の遺伝子発現量を比較し、Gene Ontologyエンリッチメント解析(既存の遺伝子データを用いて発現変動遺伝子の機能を推測する解析方法)を行ったところ、シェーグレン症候群に合併する間質性肺疾患の気管支肺胞洗浄液中のT細胞とB細胞では、液性免疫反応のみならず、自然免疫反応に関連する遺伝子発現が亢進していた。

また、皮膚筋炎ではウイルス感染防御に関連する遺伝子群が、関節リウマチではNF-κBなどの炎症に関わる遺伝子群が、全身性強皮症では小胞体機能に関わる遺伝子群の発現が亢進していた。

最後に、気管支肺胞洗浄液の上清成分と血漿成分中のサイトカイン濃度をELISAで測定したところ、皮膚筋炎の血漿ではCXCL10、関節リウマチの気管支肺胞洗浄液ではIL-6、シェーグレン症候群の気管支肺胞洗浄液と血漿では補体成分C1q、気管支肺胞洗浄液ではC3a、C4aが上昇する傾向を認めた。

気管支肺胞洗浄液の解析が、間質性肺疾患の原因鑑別や新規治療法開発につながる可能性

以上の解析結果から、各膠原病疾患に伴う間質性肺疾患について「関節リウマチでは気管支肺胞洗浄液中の好中球およびIL-6が増加」「シェーグレン症候群では気管支肺胞洗浄液中のマスト細胞、B細胞が増加し、・B細胞の液性免疫・自然免疫関連の遺伝子が亢進」「皮膚筋炎では気管支肺胞洗浄液中のT細胞が増加し、リンパ球と単球でウイルス感染防御に関わる遺伝子が亢進」「全身性強皮症とANCA関連血管炎では気管支肺胞洗浄液中で単球系細胞(肺胞マクロファージ)が増加」ということが明らかになった。

これらの実験結果から、CTD-ILDにおける各膠原病の気管支肺胞洗浄液の細胞分布の特徴が明らかとなり、これらの変化がCTD-ILDの病態に関与している可能性が示唆され、気管支肺胞洗浄液のCTD-ILDの病態解析における有用性の確立とともに、診断未確定間質性肺炎の原因鑑別への臨床応用が期待できる。

「本研究の成果によって、気管支肺胞洗浄液の解析が間質性肺疾患の原因の鑑別の一助になることとともに、膠原病に合併した間質性肺疾患の免疫異常に着目した新規治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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