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遺伝性腎疾患、AI活用の病理診断手法を開発-筑波大ほか

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2024年10月31日 AM09:20

、原因の85%はCOL4A5遺伝子変異でX染色体連鎖型遺伝

筑波大学は10月24日、アルポート症候群を模倣するモデルマウスを用い、オスとメスの比較や、メスの腎臓病変の詳細について調べ、メスに特徴的である、IV型コラーゲンが保存された領域と欠損した領域の基底膜病変を観察する手法を開発したと発表した。この研究は、同大医学医療系の川西邦夫助教(研究当時、現:昭和大学医学部解剖学講座顕微解剖学部門准教授)の研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Pathology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アルポート症候群は、南アフリカの医師であったアーサー・セシル・アルポート(Arthur Cecil Alport)による家族性腎炎家系の報告に基づいて、その病名が付けられた。アルポート症候群の正確な有病率は不明であるが、米国では小児および成人の末期腎不全症例のそれぞれ約2.2%および0.2%を、ヨーロッパでは末期腎不全症例の0.6%を占めると報告されている。

腎臓が尿をつくる過程で重要な役割を果たす糸球体基底膜の構成成分の一つに、IV型コラーゲンがある。アルポート症候群の原因の85%は、IV型コラーゲンのα5鎖をコードする遺伝子COL4A5が変異するX染色体連鎖型遺伝型である。他に、COL4A3またはCOL4A4の変異をきたす常染色体潜性(劣性)遺伝型(10~15%)と常染色体顕性(優性)遺伝型(5%程度)がある。X連鎖性アルポート症候群の男性は、小児期早期から血尿を示し、その後アルブミン尿、重度のタンパク尿を経て、40歳までに末期腎不全に至る。感音性難聴や、内斜視、斑状網膜、角膜病変などの眼球異常も多く、これらの症状は小児期後半から成人期前半に現れる。一方、女性患者の約15%が40歳までに末期腎不全になるという事実が米国や日本の臨床研究により明らかになったが、遺伝子診断や病理診断などでアルポート症候群が判明しても、予後を予測するためのバイオマーカーなどは未確立である。女性患者の腎予後を予測する指標があれば、腎臓を保護する降圧剤などの早期介入などを行う上で有効な手法となる。

アルポート症候群モデルマウス、メスはオスより個体差が大きく腎障害の程度もさまざま

今回の研究では、ヒトアルポート症候群のCOL4A5遺伝子のナンセンス変異(R471*)を有し、その病態を模倣するモデルマウス(AXCC マウス:Axcelead社製)を用い、オスとメスの腎障害の比較を行った。その結果、メスはオスに比べて個体差が大きく、腎障害をほとんど示さない個体から、オス並みに腎障害を示す個体までさまざまであることがわかった。病理学的には、女性患者と同様、正常な糸球体基底膜に発現するCOL4A5が保たれている部分と欠失する部分とがモザイク状になることを確認した。

個体差の大きいメスマウス、改良型PAM染色+AIが病理診断サポートとして有用な可能性

研究グループは、これまでに、糸球体基底膜を観察するための特殊染色である過ヨウ素酸メセナミン銀(Periodic Acid-Methenamine silver:PAM)染色を改良した染色法を開発しており、メスマウスの腎臓の組織にCOL4A5に対する蛍光免疫染色の画像データを取得した後、この改良型PAM染色を加えて、低真空走査型電子顕微鏡(LVSEM)による観察を行った。その結果、COL4A5の保存されている糸球体基底膜は正常と同様に緻密な構造を認めたが、欠失している糸球体基底膜は粗となっていた(Basket weave病変)。改良型PAM染色法で光学顕微鏡とLVSEMによる画像データを比較すると、光学顕微鏡画像上でもBasket weave病変が可視化されていることがわかった。

そこで、通常の病理診断によく用いられる、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)を施した腎組織に対して改良型PAM染色を行い、その染色スライドをデジタル化(whole slide image)して、病理画像解析AIソフトの一つであるHalo (Indica Labs社製)に深層学習をさせたところ、Basket weave病変を自動検出することができた。AIが算出したBasket weave病変のスコアは、それぞれの個体のタンパク尿濃度と有意な正の相関を示した。これらの結果から、同手法が、糸球体基底膜病変を定量的に評価する新しいAI病理診断サポート技術として有効である可能性が示された。

他の腎臓病の解析・診断への適用も期待

本研究では、同じ切片に対し、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡による異なる画像データを取得するシングルスライドイメージ法と、糸球体基底膜病変の可視化を改善した改良型PAM染色法を組み合わせて、AIの深層学習に有用な画像データを構築した。この手法は、アルポート症候群の病理解析だけでなく、他の腎臓病の解析や診断などへの適用も期待される、と研究グループは述べている。

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