咬筋容積とサルコペニアの関連、詳細は解明されていなかった
順天堂大学は10月22日、高齢者1,484人を対象にMRIを用いて咬筋容積を測定し、サルコペニア発症リスクとの関連性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学研究科スポートロジーセンターのアブドラザク アブラディ研究員、スポーツ医学・スポートロジーの筧佐織特任助教、田村好史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Archive of Medical Research」オンライン版に掲載されている。
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サルコペニアは、高齢期における筋肉量の減少や筋力低下を特徴とする疾患であり、高齢者の健康リスクや介護の必要性を高める主な要因の一つである。これまでの研究では、サルコペニアの要因として体重減少や身体活動量の低下など、日常的な重力に逆らう動作の影響が強調されてきた。これに加えて栄養状態、ホルモンバランス、遺伝的要因、炎症などが重要な役割を果たすことも明らかになってきた。これに対して、咬筋は体重負荷のかかる日常活動には関与しないため、その容積である咬筋容積の決定因子が四肢骨格筋量とは異なることが予想される。しかし、これまで咬筋容積とサルコペニアとの関連はいくつか報告があったものの、その詳細については十分に解明されていなかった。
日本人高齢者1,484人対象、咬筋容積をMRI測定・サルコペニアとの関連を調査
今回研究グループは、文京ヘルススタディに参加した1,484人の日本人高齢者(男性603人、女性881人、平均年齢73.0±5.3歳)を対象に、MRIを用いて咬筋容積を詳細に測定した。男性の咬筋容積の平均は35.3ml、女性は25.0mlであり、男性が有意に大きいことが確認された。
咬筋容積最小群、最大群よりサルコペニアリスクが男6.6倍/女2.2倍上昇
咬筋容積が最も小さいグループは、最も大きいグループと比較してサルコペニアのリスクが著しく高く、男性では6.6倍、女性では2.2倍という結果が得られた。
咬筋容積は遺伝的要因など、四肢骨格筋量はBMIなどの影響「大」
さらに、BMI、インスリン様成長因子1(Insulin-like Growth Factor 1:IGF-1)、喫煙習慣、ACTN3 R577X遺伝子多型などこれまで骨格筋量への影響があると報告のあった因子について、咬筋容積あるいは四肢骨格筋量への影響を比較検討した。その結果、BMIは両者に対して正の相関を示し、特に四肢骨格筋量に強い影響を与えることが確認された。一方、IGF-1は咬筋容積に対してのみ有意な正の相関があり、四肢骨格筋量には影響を与えなかった。喫煙習慣は女性において咬筋容積を減少させる傾向が見られ、ACTN3 577XX遺伝子型は男性において咬筋容積の減少と関連があったが、四肢骨格筋量との関連は認められなかった。これらの結果から、咬筋容積と四肢骨格筋量には異なる決定因子が存在し、それぞれの筋肉量に対する影響は一様ではないことが示唆される。特に、咬筋容積は遺伝的要因やホルモンなどの影響を強く受ける一方で、四肢骨格筋量は年齢やBMIの影響が大きいことがわかった。
頭部MRIで咬筋容積も測定、サルコペニアリスク早期発見寄与に期待
この研究の意義は、咬筋容積がサルコペニアのリスクを評価する重要な指標となる可能性を示した一方で、咬筋容積と四肢骨格筋量の決定因子が異なっていた点にある。近年サルコペニアに対するさまざまな要因が挙げられる中、咬筋容積が遺伝要因やホルモン因子のような日常の活動量以外の影響を強く受ける可能性が示唆され、特に、頭部MRIが行われる際に咬筋容積の測定を追加することで、サルコペニアリスクの早期発見に寄与することが期待される。
今回の研究は、咬筋容積がサルコペニアリスクの新たな指標として有用であることを示し、特に四肢骨格筋とは異なるメカニズムによって影響を受けることを明らかにした。この知見は、CTやMRI検査を行う際に咬筋容積の測定を追加することで、サルコペニアの早期診断やリスク評価が可能になる可能性を示唆している。また、遺伝的要因を考慮した個別化医療や予防プログラムの構築にも寄与することが期待される。
今後、咬筋容積と他の全身の筋肉量や機能の関連性を詳細調査へ
今後の研究では、咬筋容積と他の全身の筋肉量や機能の関連性をさらに詳細に調査するとともに、骨格筋量減少と関連する他の疾患との関連を調査し、サルコペニア予防のための包括的なリスク評価モデルを開発することが重要であると考えている、と研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース