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「風邪に抗菌薬処方」と関連する診療所の特性を明らかに-東大ほか

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2024年10月30日 AM09:20

不適切な抗菌薬処方を受けることの多い急性呼吸器感染症に注目

東京大学は10月22日、診療所における非細菌性の急性呼吸器感染症(いわゆる風邪)に対する抗菌薬処方率に、院長の年齢・診療所の患者数・診療所の医師数が関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の宮脇敦士特任講師、同医学部医学科の青山龍平、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

(Antimicrobial resistance:)は世界中で注目を集める課題であり、その対策として、抗菌薬の不適切な処方を減らすことが重要だ。日本では、2016年よりAMR対策アクションプランをはじめとして、適切な処方を推し進める取り組みが行われているが、十分な成果は出ていない。こうした取り組みに寄与すべく、研究グループは急性呼吸器感染症が不適切な抗菌薬処方を受けることの多い疾患の一つであることに注目し、急性呼吸器感染症への抗菌薬処方と関連する診療所の特性を調査した。

約98万人の成人患者とその診療所の特性、抗菌薬処方との関連を分析

日本全国の診療所データベースを用い、2022~2023年の間に1,183の診療所で非細菌性の急性呼吸器感染症と診断された97万7,590人の成人患者(18〜99歳)について、診療所の特性(院長の性別・年齢、患者数、グループ診療か否か)と抗菌薬の処方との関連を分析した。分析においては、さまざまな患者の要因(年齢、性別、併存疾患など)、診療所の所在地を調整することのできる回帰モデルを使用し、これらの影響を統計的に補正した。また、広域スペクトラム抗菌薬(先行研究や政策目標を踏まえ、第3世代セファロスポリン、マクロライド系、フルオロキノロンと定義)と、その他の抗菌薬の処方についても分析した。

処方率が高い診療所の特徴は「院長が60歳以上」「患者数が多い」「単独診療」

その結果、97万7,590人の患者のうち17万1,483人(17.5%)に抗菌薬が処方され、広域スペクトラム抗菌薬が抗菌薬処方全体の88.3%を占めることがわかった。内訳としては、クラリスロマイシンが最も多く処方され(30.7%)、次いでレボフロキサシン(12.2%)、セフジトレン(11.2%)、アジスロマイシン(11.1%)、セフカペン(9.2%)、アモキシシリン(7.9%)となっていた。

分析の結果、院長の年齢・診療所の患者数・診療所の医師数(グループ診療vs.単独診療)が抗菌薬処方率と関連することがわかった。院長の年齢については、60歳以上では45歳未満と比べて、調整後オッズ比が2.14(95%信頼区間、1.56-2.92)であり、1日の受診患者数については、患者数の多い診療所(年間中間値58人/日以上)では患者数の少ない診療所(年間中間値35人/日以下)と比べて、調整後オッズ比が1.47(95%信頼区間、1.11-1.96)と、どちらも統計学的に有意に高いことがわかった。また、グループ診療を行う診療所では、医師1人が単独で診療を行う診療所と比較して、調整後オッズ比が0.71(95%信頼区間、0.56-0.89)と統計学的に有意に低い結果だった。一方で、院長の性別に関しては、統計学的に有意な差は認められなかった。広域スペクトラム抗菌薬の処方のみに注目した場合にも、上記すべての特性で同様の傾向が認められた。

処方率が高い診療所への働きかけがAMR対策に有効である可能性

研究の結果は、AMRに対する取り組みを今後継続していく上で、一定の特性を持つ診療所への働きかけが有効である可能性を示唆している。結果のメカニズムは不明であるが、院長の年齢による抗菌薬処方率の差については、継続的な医学教育の機会が不足していることが背景にあると考えられた。また、患者数が多く、単独診療であるほど抗菌薬処方率が高くなる背景には、医師の業務負荷が増すことで患者に十分に説明する代わりに抗菌薬を処方してしまう、という処方パターンが存在する可能性がある。「今後の研究において、これらのメカニズムを明らかにすることで、抗菌薬適正使用に向けて、より効果的な介入につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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