新規治療法開発などの可能性に注目されるエクソソーム、いまだ承認されたものはない
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は10月25日、新たに発表した論文において、エクソソームを用いた医療介入に関する規制を明確にする必要性を指摘したと発表した。この研究は、CiRA上廣倫理研究部門の藤田みさお教授(京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi))、静岡社会健康医学大学院大学の八田太一講師、国立がん研究センター生命倫理部の一家綱邦部長、MLIP経営法律事務所の大西達夫弁護士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」にオンライン掲載されている。
現在、確立された科学的エビデンスがない細胞治療が高額で患者に提供されている実態が世界中で問題視されているが、エクソソームを用いた医療介入も同様の課題を抱えている。エクソソームは細胞から分泌される直径50~150nm程度のカプセル状の微小な粒子で、内部にさまざまなタンパク質や核酸・脂質などを含んでおり、細胞間の情報伝達の機能を持つ。エクソソームについて、新しい治療法や診断法の開発の可能性に注目が集まっているが、これまでに厚生労働省が治療手段として承認したものはない。
日本では科学的エビデンス未確立でも医師判断で提供可能、有害事象も追跡できない
米国やEU(欧州連合)でエクソソームを治療目的で使用する場合、厳格な規制のもとに、生物製剤や薬剤としての各国政府による審査や承認が必要となる。こうした規制がある国でも、後述するようなエクソソーム治療を提供するクリニックが数十件ほど存在することが報告されている。
これに対し、日本では科学的エビデンスが確立されていない治療であっても医師の判断で提供することができる。ある調査会社による2023年の報告では、国内ではエクソソーム治療(エクソソームを含有するとして幹細胞培養上清を投与する場合を含む)を提供する医療機関も欧米に比べて格段に多く(669件)、主にアンチエイジングや育毛、疲労回復を目的に提供され、ウェブサイト上で「再生医療」をキーワードに用いる医療機関も7割を超えていた。2023年には患者が死亡した事例や、投与後にがんの増悪が見られたにもかかわらず治療が続けられた事例が報じられた。しかし、明確な規制がない現状では、有害事象が発生してもそうした事例を正確に追跡、把握し、評価を行う仕組みがなく、患者の安全を確保できない。
国際幹細胞学会などがリーダーとなり、注意喚起と各国の規制明確化を推進するよう要求
このような事態を防ぐためには、患者を保護し、かつ研究の発展を妨げない規制の早急な整備が求められる。また、この問題は日本だけのものではない。今回の論文においては、日本再生医療学会や日本細胞外小胞学会などによる取り組みを紹介しつつ、国際幹細胞学会などが中心となり、患者保護のための注意喚起と各国における規制の明確化を推進するリーダーシップを発揮するよう求めた。
「そうした医学界の議論を踏まえて、日本におけるエクソソームを用いた医療介入に対する適切な規制のあり方を検討すべきであろうと考える。今後も引き続き、科学的エビデンスの確立されていない治療が患者に高額で提供されている問題について研究を深め、一般の人々にもこの問題を正しく理解していただけるよう、研究活動と情報発信に努めたいと考えている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学iPS細胞研究所(CiRA) プレスリリース