精神疾患を抱える患者数は年々増加、メンタルヘルス改善の取り組みが必要
上智大学は10月22日、心の健康状態に着目して、精神的に健康な状態で生きる人生の長さを推計し、調査対象期間(2010~2022年)においては、精神的に健康な状態な生きられる人生の長さは全般として著しく延伸した一方、高齢者、特に高齢男性では改善が限定的であることがわかったと発表した。この研究は、同大国際教養学部国際教養学科の皆川友香准教授によるもの。研究成果は、「Asian Social Work and Policy Review」に掲載されている。
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日本人の身体的健康状態、特に死亡率に関しては、数多くの調査や研究が行われてきたのに対し、精神的健康状態に関する情報はまだ十分に蓄積されていない。しかし、精神疾患を抱える患者の数は年々増加している。2013年から厚生労働省が実施した10年計画である「健康日本21(第二次)」では、気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者の割合の減少が目標の一つとして掲げられたが、2010年は10.4%、2019年は10.3%とほぼ横ばいだった。さらに、2022年の自殺による死亡者男性で、過去13年間で初めて増加に転じ、女性は3年連続で増加が続いている。
こうした状況の中、国民のメンタルヘルス改善に取り組む必要性が広く認識されるようになってきている。しかし、これまでの研究では、国民の身体的健康状態と精神的健康状態がどの程度関連しているのかについては調べられていなかった。そこで、日本国民の平均余命と健康状態に関するデータを組み合わせ、健康状態で生きられると予想される平均年数を推計することで、身体的健康状態と精神的健康状態の関係を調査した。
精神的な健康度を加味した日本人の平均余命について、2010~2022年を対象に調査
研究では、1)健康の尺度として心理的ストレスに焦点を当てた健康余命の推定、2)過去12年間(2010-2022年)の平均余命と心理的ストレスの関係の検討、3)心理的ストレスの重症度が平均余命に及ぼす影響の定量化、4)死亡率と精神的健康のギャップを生み出す要因の検討を実施した。健康余命の推計には、厚生労働省が公表している2010年、2013年、2016年、2019年、2022年の男女別簡易生命表のデータ、および心理的ストレスに関するデータとして国民生活基礎調査(2010~2022年)のK6尺度を用いた。
若年層は12年間で改善示す一方、高齢男性では改善幅が最小
その結果、男女ともに2010年から2022年の間に、心理的ストレスのない健康余命の長さと割合において大幅な改善が示された。この変化は、25歳、45歳、65歳の男女で統計的に有意であり、その改善の大きさは、特に若年者において大きく、若い男女では、死亡率による寄与よりも心理的ストレスの変化の方が、改善の程度に大きな影響を与えていることが示唆された。一方、65歳男性では、心理的ストレスのない健康余命と割合の改善幅は最も小さいことが明らかになった。これは、高齢男性は心理的ストレスのリスクに脆弱であることを示しており、今後の施策において必要となる視点を提供する結果だ。
また、心理的ストレスの重症度が平均余命に与える影響は、性別および年齢によって改善につながる場合もあれば悪化につながる場合もあったことから、単純な結論を導き出すことは不可能であることもわかった。
身体的健康状態だけでなく精神的健康状態も重視した政策が必要
これらの結果は、心理的ストレスによって測定される精神的健康状態が、日本人の全般的な健康状態に重要な影響を与えることを示している。今後、メンタルヘルスケアへの公平なアクセスを可能にする社会プログラムや対策を設計することの重要性を強調する成果といえる。皆川准教授は「研究によって心の健康状態は身体的健康状態を密接に関係していることが示された。今後、心の健康状態の改善に向けたさらなる施策が必要になるだろう」と、述べている。
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