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ヒト脳オルガノイド研究におけるプライバシー保護の問題の論点を整理-広島大ほか

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2024年10月23日 AM09:00

「細胞提供者の記憶を複製している?」という不安、プライバシー問題をどう考えるか

広島大学は10月16日、ヒト脳オルガノイド研究における細胞提供者のプライバシー保護の問題について検討し、建設的な議論を進めるための論点をまとめて発表した。この研究は、同大大学院人間社会科学研究科の片岡雅知寄附講座准教授、石田柊寄附講座助教、小林知恵寄附講座助教、および澤井努特定教授兼寄附講座教授(京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点連携研究者)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Trends in Biotechnology」にオンライン掲載されている。

近年の神経技術の急速な進歩により、こうした技術を用いて脳に関するデータを収集し、人の記憶や思考などを読み取ることができるのではないかという懸念が出てきている。こうした中でデータが不正にアクセスされたり、誤って使われたりしないように、「脳神経関連権」や「神経プライバシー」という新しい考え方が提案され、注目を集めている。これらの考え方は脳を対象とした基礎研究に影響を与えるが、人の幹細胞から作られた脳組織、つまり「」を用いた研究にはまだ適用されていない。一方で、過去の研究では、ヒト脳オルガノイドは細胞提供者の記憶や思考を複製しているのではないかと不安を感じる人もいることがわかっている。このような不安に対応するためには、ヒト脳オルガノイド研究にどのようなプライバシーの問題があるかを整理する必要がある。

思考の読み取りは不可、一方で誤解を解くための丁寧なコミュニケーションが重要

今回の研究では、最近注目されている「神経プライバシー」という考え方を、1)思考や記憶に関するプライバシー(精神的プライバシー)と、2)脳疾患に関する情報のプライバシーの2つに分け、それぞれがヒト脳オルガノイド研究とどのように関わるかを分析した。

精神的プライバシーへの懸念としては、実際のところ、心配は不要だ。その理由は、脳オルガノイドが細胞提供者の記憶や思考を複製することができないからである。まず、現在の脳オルガノイドは記憶や思考を処理するほど複雑な神経回路を再現できていない。また、たとえ将来、より複雑な脳オルガノイドを作れるようになったとしても、それが細胞提供者の脳をそのまま再現するわけではない。同じ遺伝情報を持つiPS細胞を使用した場合でも、脳オルガノイドの発達の仕方は細胞提供者の脳とは全く異なる。脳オルガノイドが細胞提供者の心をコピーするという誤解に基づいた議論は、将来的に医療分野での応用が期待されている脳オルガノイド研究の発展を妨げる可能性がある。今後は、このような誤解を解消するために、丁寧な科学コミュニケーションが重要と考えられる。

脳疾患に関する情報のプライバシーに対しては法律やGLが存在、特別に懸念する必要なし

一方で、ヒト脳オルガノイド研究の一部では、脳疾患に関する重要な情報を扱うことがある。例えば、脳の疾患を持つ人の細胞から脳オルガノイドを作り、その疾患のモデルを作製する研究が数多く行われている。このような研究では、疾患に関する情報が収集されるため、特に偏見を受けやすい疾患の場合、プライバシーに関する懸念が生じる可能性がある。しかし、疾病に関する情報のプライバシーの問題は、脳オルガノイド研究だけに特有のものではない。このような情報が研究機関などでどのように管理され、共有されるべきかについては、すでにさまざまな法律やガイドラインが定められている。情報技術の進歩や研究の拡大に伴い、既存のルールを見直す必要があるかもしれないが、脳オルガノイド研究だけを特別に懸念する必要はないと考えられる。

他の人の組織と組み合わせたり、動物に移植する場合には異なる問題が生じる可能性

研究で分析したプライバシーの問題は、試験管内で作製・利用されるヒト脳オルガノイドの研究を想定したものだ。しかし、ヒト脳オルガノイドを他の人の組織や機械と組み合わせたり、動物に移植したりすることも可能であり、その場合には異なるプライバシーの問題が生じるかもしれない。また、今回の研究ではヒト脳オルガノイド研究に特有のプライバシーの問題はないと結論づけたが、他にも権利の問題(ヒト脳オルガノイドの法的な位置づけや、細胞提供者からの同意取得に関する問題など)が議論されている。「責任ある研究と技術開発を進めるためには、こうした問題について包括的でバランスの取れたルールを整えることが求められる」と、研究グループは述べている。

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