より優れた骨形成能・生体吸収性、高い操作性の人工骨開発が求められる
東北大学は10月8日、整形外科領域の四肢骨等の骨欠損を対象とした、リン酸八カルシウム/ゼラチン複合体(OCP/Gel)からなる骨補填材の開発に成功したと発表した。ニプロ株式会社が商品名「ブリクタ(R)(Bricta(R))」として販売を開始する。この研究は、同大大学院歯学研究科(顎口腔機能創建学分野)の鈴木治教授、濱井瞭助教、医学系研究科(整形外科学分野)の井樋栄二名誉教授、相澤俊峰教授、森優講師らは、東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)の開発支援を受け、ニプロ株式会社との研究グループによるもの。
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整形外科領域では、外傷や骨腫瘍切除後に生じる骨欠損、脊椎固定術、変形性関節症に対する人工関節手術や骨切り術など、さまざまな治療において骨移植が必要とされている。日本整形外科学会の調査によると、骨移植の実施件数は増加傾向にあり、今後も需要が高まることが予想されている。骨移植の方法には、自家骨移植、同種骨移植、人工骨移植の3つがある。自家骨移植は、患者自身の骨を採取するため、感染症や異物反応のリスクがない。また、骨形成に必要な細胞や成長因子が含まれるため、早期に骨欠損部の修復が可能だ。しかし、手術部位と異なる部位から採骨することが多く、また、採骨部での骨折や疼痛、採取できる骨の量の制限などの問題があり、巨大な骨欠損に対しては自家骨移植のみでの治療が難しい。同種骨移植は、移植骨片の適切な採取、保存、管理が必要であり、使用できる施設が限られている。また、感染症のリスクも懸念される。
一方、人工骨は合成物であり、使用できる量に制限がなく、感染のリスクが少ないこと、採骨による新たな侵襲がないこと、施設を選ばずに使用できることが利点である。しかし、現在実用化されている人工骨ハイドロキシアパタイト(HA)やβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)は、自家骨と同等の骨新生能を持つには至っていない。人工骨が残存し、骨組織に置換されない場合、異物反応を引き起こし、感染や周囲の骨組織を破壊する可能性がある。そのため、現状では自家骨移植が全骨移植の約60%を占める状況が続いており、より優れた骨形成能と生体吸収性を持ち、かつ、臨床現場で高い操作性を示す人工骨の開発が求められている。
OCP/Gel埋入の両側皮質骨貫通骨欠損、良好な骨形成示す
そこで今回、研究グループはOCP/Gel人工骨を開発した。整形外科領域におけるOCP/Gelの有用性について検討した結果、OCP/Gelを埋入した大腿骨骨欠損部(両側皮質骨貫通骨欠損)の4週と8週における観察において、材料の生体内での吸収と良好な骨形成が示された。
骨形成能と生体吸収性を有するOCPとゼラチンとを複合化することにより人工骨としての形状を付与するブリクタは、整形外科領域の臨床現場で使用可能な良好な操作性を有し、かつ新生骨組織への置換性に優れた人工骨としての利用が期待される。
整形外科領域の骨疾患全般へ適用拡大を目指す
今後研究グループは、東北大学および関連病院において四肢骨等の骨欠損修復に関する臨床研究を進め、臨床での使用実績を重ねるとともに、将来的には整形外科領域の骨疾患全般へ適用拡大して有効性・安全性を確認しつつ臨床治療例を取得していく予定だとしている。
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