浸潤性膵管がんを早期・正確に予後を予測できるバイオマーカーの開発が求められていた
慶應義塾大学は10月11日、新しい診断技術を用いて、手術前後の血液中でO型糖鎖が変異したエクソソームを検出することにより、浸潤性膵管がんの予後を予測できることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部外科学教室(一般・消化器)の上村翔助教、高知大学教育研究部医療学系基礎医学部門の加部泰明教授(研究当時:慶應義塾大学医学部医化学教室准教授)、慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)の北川雄光教授、北郷実准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。
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浸潤性膵管がんは、悪性腫瘍の中でも特に予後が悪く、5年生存率が非常に低いことが知られている。従来の腫瘍マーカーであるCA19-9は、診断や予後予測に使用されているが、全ての膵がん患者で有効とは限らず、特に手術後の早期再発リスクの評価には限界がある。このため、より早期かつ正確に予後を予測できるバイオマーカーの開発が求められている。
エクソソームは、細胞から分泌されるナノサイズの小胞であり、特定のタンパク質やRNA、糖鎖構造を含んでいるため、がんの診断や予後予測のバイオマーカーとして注目されている。特に、エクソソーム表面のO型糖鎖の変異は、がん細胞でしばしば観察され、がんの進行や転移と関連していることが示唆されている。
ACAレクチンで、膵がん患者のO型糖鎖変異エクソソームを検出する新規技術を開発
研究グループは、先行研究により開発されたExoCounterと呼ばれるエクソソームカウント技術を基に、さらにO型糖鎖構造を認識するACAレクチンを用いて、膵がん患者におけるO型糖鎖変異エクソソームを検出する新しい技術を開発した。これらの知見を基に今回、膵がん患者の予後を予測するための新しいバイオマーカーとして、手術前後のACA陽性エクソソーム数の変化に着目した。
ACA陽性エクソソーム数の変化が予後と強く関連、術後早期の予後予測に有効と判明
研究では、膵がん患者44人の手術前後の血清サンプルを解析し、ACA陽性エクソソーム数の変化が予後と強く関連していることを見出した。手術後7日目の時点で、44人中27人(61.4%)の患者でACA陽性エクソソームが増加しており、これらの患者(上昇群)は術後に低下している患者(低下群)と比較して、全生存期間(OS)および無再発生存期間(RFS)が有意に短いことが示された(OS中央値: 26.1か月 vs. 到達せず、p=0.018; RFS中央値: 11.9か月 vs. 38.6か月, p=0.013)。一方、血清中のCA19-9は術後に多くの患者で低下し、上昇群と低下群の間に再発リスクとの関連性は見られなかった。
これらの結果は、ACA陽性エクソソームの測定がCA19-9測定よりも術後早期の予後予測において優れていることを示唆している。
患者ごとの適切な治療法選択の新しい指標となる可能性
今回の研究により、手術後にACAレクチンに結合するエクソソームが上昇する患者は、再発リスクが高く、予後が不良であることが明らかになった。「これは、患者ごとにより適切な治療法を選択するための新しい指標が提供されることを示している」と、研究グループは述べている。
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