医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 中途視覚障害者の前向き変容に「分離的な場」が貢献している可能性-筑波大ほか

中途視覚障害者の前向き変容に「分離的な場」が貢献している可能性-筑波大ほか

読了時間:約 3分2秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年10月21日 AM09:30

障害当事者やその家族にとって「分離的な場」の存在意義は?

筑波大学は10月11日、中途視覚障害者にとって、視覚特別支援学校のような障害者が集まる「分離的な場」の存在が、受障後の前向きな心理的変容に大きく貢献していることを見出したと発表した。この研究は、同大人間系の宮内久絵准教授と筑波技術大学保健科学部保健学科の松田えりか助教(筑波大学大学院障害科学学位プログラム博士課程3年)らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Visual Impairment」に掲載されている。

中途視覚障害は、発生頻度が少ないという視覚障害そのものの特性に加え、その多くが進行性の疾患によるものであり、見え方を理解してもらうことが難しく、周囲から誤解されやすい障害種とされている。世界各国では、主としてリハビリテーションセンターが中途視覚障害者の社会復帰を支援しているが、日本では視覚特別支援学校も社会復帰支援の場となっており、中途視覚障害者の中には障害の受障後、視覚特別支援学校の職業課程に入学し、社会復帰を目指す人たちもいる。視覚特別支援学校は全国に67校あり、その多くが幼稚部から成人が在籍する職業課程までを設置している。職業課程(58校)では、鍼灸マッサージの職業教育が実施されている。

障害のある人々が集まる場所は「分離的な場」と言われている。このような場は障害のある者も障害のない者も、ともに社会に参加するインクルーシブな社会の実現において、障害のある人々を社会から隔離し、社会参加を妨げるという理由から、しばしば批判の対象となっている。視覚特別支援学校もまた、視覚障害当事者が集まることから分離的な場としての側面を持っている。

インクルーシブな社会の実現は、障害の有無に関わらず、全ての人が互いに個性や特徴を認め合い、一緒に活動する上で重要だ。しかし、最近の研究では障害当事者に対する支援のないままインクルージョンの実装によって場所の統合が図られた結果、より深刻な生きにくさを抱えて暮らす障害当事者やその家族が存在している現状もあり、分離的な場が失われたために負の側面が生じることも報告されている。そのため、分離的な場の積極的な意義についても検討する余地があった。

視覚特別支援学校の職業課程に在籍する中途視覚障害当事者にインタビュー調査を実施

研究グループはこれまで、分離的な場である視覚特別支援学校に着目し、大規模な全国調査の中で視覚特別支援学校への入学により、中途視覚障害者が自分自身をポジティブに捉え、心理的な回復と成長を遂げていることを明らかにしてきた。しかし、そのプロセスや理由については、解明できていなかった。

今回の研究では、6校の視覚特別支援学校の職業課程に在籍する21人の中途視覚障害当事者に対してインタビュー調査を実施した。インタビューは「視覚特別支援学校に入学したことにより変化したことはありましたか?」「その変化を促したものは何ですか?」という質問を軸に展開した。

視覚特別支援学校は当事者同士の出会いの場となり前向きな心理的変容をもたらす

インタビューでの発言内容を分析した結果、視覚特別支援学校への入学により中途視覚障害者に生じた前向きな心理的変容とは、具体的に「強い自己の認識」「新たな可能性の発見」「他者との関係の強化」「人生に対する感謝の芽生え」の4つであることがわかった。

また、これらの心理的な回復と成長に関して、視覚特別支援学校が有する分離的な場としての2つの特徴的な機能が、その誘発に大きな貢献をしていることを見出した。

第1に、同じ境遇の中途視覚障害者や、年齢、障害の程度の異なる多様な視覚障害当事者が集まり、視覚障害が低発生頻度障害であるがゆえに、出会いにくい同じ境遇を有する当事者同士を出会わせていたことにある。また、彼らが相互に助け合い、協力し合う場所でもあり、他者のために努力し、ときに他者のロールモデルになる経験ができる場所となっていた。

そして第2に、生徒の目の見えにくさに配慮した授業や部活動などの教育活動が展開されており、拡大教材・支援機器の利用や、鍼灸マッサージという職業を知る機会になっていたことがある。このことが、目の見えにくさが徐々に進行し、制約が少しずつ拡大していく状況にある当事者たちを受け止め、新しい目標を発見し、自信を与える場所としての機能につながっていた。

これらの機能はいずれも、障害者が集まる分離的な場の特性に基づくものであり、中途視覚障害者が障害の受障後に心理的な変容を果たす上で、分離的な場の果たす役割も重要であることが示された。

「分離が必ずしも悪影響を及ぼすとは限らない」という柔軟な考えが重要

インクルージョンの実装が進む中で、障害のある人たちが集まる特別な場は批判されがちだが、分離が必ずしも全てに悪影響を及ぼすとは限らない。

「今後、分離的な場に対する一方的な批判的主張に問題を提起し、このような場の重要性についても、柔軟な理解を促していく」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 網膜疾患のステロイド治療、投与時期により血管修復メカニズム損なう可能性-京大ほか
  • 食道症状への不安など心理的影響を調べる日本語版質問票を開発-大阪公立大ほか
  • 幼児の運動発達を可視化、新ツールSMC-Kidsを開発-名城大ほか
  • 電気けいれん療法後の扁桃体下位領域構造変化が、症状改善と関連の可能性-京大
  • パーキンソン病、足こぎ車いすの有用性を確認-畿央大