2021-22年新型コロナ感染の子と親対象、スティグマ・メンタルヘルス調査
国立成育医療研究センターは10月11日、新型コロナウイルス感染症に感染した子どもとその親に対して、新型コロナウイルス感染症に係るスティグマ(患者に対する「差別」や「偏見」)と、メンタルヘルスへの影響について調査した結果を発表した。この研究は、同大研究センター総合診療部の飯島弘之氏、窪田満氏、社会医学研究部の石塚一枝氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pediatrics International」に掲載されている。
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今回の研究では、2021年11月~2022年10月まで、新型コロナウイルスに感染して国立成育医療研究センターに入院した4~17歳の子どもおよび、新型コロナウイルスに感染して入院した0~17歳の子どもの親を対象として、新型コロナウイルス感染症に係るスティグマとメンタルヘルス(抑うつ、不安、孤独感)に関する質問票調査を実施した。入院中の47人の子どもと111人の親が対象となり、そのうち入院中の調査では子ども43人(91%)と親109人(98%)が質問票に回答し、1か月後の追跡調査ではそれぞれ38人(81%)と105人(95%)が回答した。
スティグマについては、隠ぺいスティグマ(覆い隠すことによって偏見や差別を回避しようとするスティグマ)と回避スティグマ(個人や集団が感染を回避しようとするスティグマ)についてそれぞれに、主観的スティグマ(「自分だったら〇〇と思うだろう」という偏見)と推定スティグマ(「多くの人がそう思うだろう」と想像する偏見)を確認するアプローチを採用した。メンタルヘルスを評価する質問として、抑うつ、不安、孤独について調査した。
主観的スティグマの子と推定スティグマの親、1か月後メンタルヘルスにネガティブな影響
入院中の調査では、新型コロナウイルスに感染した子どもの79%、親の68%が高スティグマに該当し、1か月後の調査においても、子どもの66%、親の64%が高スティグマに該当していた。推定スティグマの方が、主観的スティグマよりも、高スティグマグループの割合が高くなっていた。
子どもの抑うつと孤独感、親の抑うつと不安は、いずれも、入院中と比べ、1か月後の追跡調査で有意に低下していた。しかし、主観的スティグマがある子どもと推定スティグマがある親においては、1か月後においても、メンタルヘルスにネガティブな影響が見られた。
スティグマが精神衛生に与える影響、子と親で異なる
子どもの主観的スティグマは、入院中の孤独感(平均差[MD]2.32、95%信頼区間[CI]、0.11~4.52)と1か月後の追跡調査での抑うつ(MD 2.44、95%CI、0.40~4.48)と関連していた。一方で、推定スティグマは、メンタルヘルスとの間に有意な関係は見られなかった。
親の推定スティグマは、1か月後の追跡調査で抑うつ、不安、孤独感と関連していた(MD 2.24、1.68、1.15、95%CI、0.58~3.89、0.11~3.25、0.08~2.21)。一方で、主観的スティグマとメンタルヘルスとの間に有意な関係は見られなかった。
今回の調査結果から、新型コロナウイルス感染症に関連するスティグマは、退院後1か月以上にわたって精神衛生に影響を及ぼし続けること、スティグマが精神衛生に与える影響は子どもと親で異なることが示された。
感染者の子と親へ心理社会的支援が必要な可能性
同研究は、新型コロナウイルス感染症関連のスティグマがメンタルヘルスに与える影響を調べた日本で初めての研究だ。新型コロナウイルスに感染した子どもの主観的スティグマと親の推定スティグマは、退院1か月後のメンタルヘルスの悪化と関連していた。これらの結果は、こうした子どもたちとその親に対して、心理社会的支援が必要であることを示唆している。なお、同調査は、2021~2022年にかけて実施された調査であるため、当時の新型コロナウイルス感染症に対するスティグマを表しており、現在におけるスティグマを示しているものではない。しかし、今後、未知のパンデミックが発生した場合には、同調査と同様のスティグマと、それによるメンタルヘルス等への影響が生じる可能性があると考えられる、と研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース