■OTC薬実現可能性も
スギ花粉米は、強いアレルギー反応を起こりにくくするために、スギ花粉のアレルゲンの構造を改変した蛋白質を遺伝子組み換え技術によりコメに蓄積させたもので、農業・食品産業技術総合研究機構が開発した。既存のスギ花粉症に対する皮下・舌下免疫療法の投与経路とは異なり、腸管免疫の仕組みを利用したペプチド免疫療法だ。
摂取すると消化されずに腸まで届くため、腸管免疫の仕組みを用いて免疫寛容を誘導し、スギ花粉アレルゲンを取り込んでもアレルギー反応が起きなくなる効果が期待されている。
政府は昨年5月に「花粉症対策の全体像」を取りまとめ、スギ花粉米の実用化に向けたさらなる臨床研究を実施する方針を打ち出した。農水省は、来年度予算の概算要求で1億4000万円を計上し、スギ花粉米の実用化に向けた安全性・有効性の検証事業を開始する計画だ。
現在、アレルギー専門医や製薬企業などの専門家からの助言を受けつつ、追加的な非臨床試験と臨床研究の試験計画を策定中。試験期間については、長期投与により長期寛解または治癒が期待されることを考慮し、少なくとも2~3年間の継続投与を行い、スギ花粉飛散期2~3シーズン以上にわたって有効性・安全性を検討する必要があるとしている。
医薬品原料として米の安定供給が必要になるが、植物工場でGMP基準に適合した生産により、原料米を年複数回供給できるメドを付けた。医薬品の剤形については、毎日経口摂取する必要性から、有効性が期待できる用法・用量や作用機序の検討のしやすさ、服用のしやすさを踏まえ、コメ中の有効成分の抽出物であるPB分画の粉末を候補に検討を進める。
来年度から3年間でヒトでのPOCを取得し、製薬企業への技術移転を実現する。開発を引き継いだ製薬企業によって検証的な臨床試験が行われ、スギ花粉米の実用化へとつなげたい考えである。
スギ花粉症は国民の約4割が罹患しているとされ、花粉症を含むアレルギー性鼻炎の医療費は年間4000億円と推計されている。ただ、遺伝子組み換え作物を原料とするヒト用医薬品はこれまでに例がなく、医薬品としての承認にはハードルがある。
これまで実施したスギ花粉米の非臨床試験では有意な有害事象は認められていないものの、有効性を評価した小規模な臨床研究では、スギ花粉アレルゲンを認識するT細胞の増殖活性の低下が見られた一方、鼻症状などの臨床症状は改善しなかった。
既存のスギ花粉舌下療法薬に対する優位性を示せるかも重要になる。治療薬として明確な効果を示した上で、副作用としてのアレルギー反応が起きる可能性が低いことやリスク最小化が可能であることなどを実証できるかが課題となる。
農水省は、今後集積する有効性・安全性のデータやリスク管理の方策次第によっては、スギ花粉米がOTC医薬品としてセルフメディケーションに貢献できる製品になる可能性にも期待する。
実用化に成功すれば、花粉症だけではなく他のアレルギー治療薬への応用も見えてくる。