従業員の健康状態や企業の利益率向上などに健康経営の取り組みは関連しているのか
順天堂大学は10月9日、日本企業における従業員のライフスタイルとメンタルヘルス関連欠勤率および離職率との関連を調査し、その結果を発表した。この研究は、同大医学部総合診療科学講座の矢野裕一朗教授と健康長寿産業連合会、JST共創の場形成支援プログラム「若者の生きづらさを解消し高いウェルビーイングを実現するメタケアシティ共創拠点」が、経済産業省主導の健康経営度調査データを用いて行った共同研究によるもの。研究成果は、「Epidemiology and Health」に掲載されている。
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健康長寿産業連合会 健康経営の推進ワーキンググループ(WG3)では、健康経営の推進をテーマに「健康経営を通じた生涯現役社会の実現、および健康寿命の延伸」「個々の企業における従業員等の健康保持・増進、それを通じた人材の定着・確保」および「それらを推進することで「健康寿命延伸産業」の創出・拡大」の実現を目的とし、活動を推進している。
今回、健康経営の各施策の取り組みが従業員の健康状態や企業の利益率向上、医療費抑制につながるのかを俯瞰的観点から同定することを目的として共同研究を開始した。
睡眠、運動、喫煙習慣がメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率と関連
研究グループは、経済産業省が毎年実施している「健康経営度調査」のデータを用いて、ライフスタイル(喫煙、運動、飲酒、睡眠習慣など)とメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率との関連について評価した。同分析は1,748社(従業員419万9,021人)のデータが含まれ、メンタルヘルス関連の欠勤率の全体の平均は1.1±1.0%、離職率は5.0±5.0%だった。全ての生活習慣因子と交絡因子を組み込んだ多変量回帰モデルでは、睡眠により十分な休養が取れている者の割合が1%増加すると、離職率が -0.020%(95%信頼区間(CI);-0.038,-0.002)、メンタルヘルス関連の欠勤率が -0.005%(95%CI; -0.009, -0.001)減少した。また、運動習慣の割合が1%増加すると、メンタルヘルス関連の欠勤率が-0.005%(95%CI; -0.010, -0.001)減少した。
一方、喫煙割合が1%増加すると、メンタルヘルス関連の欠勤率が-0.013%(95%CI; -0.017, -0.008)減少した。しかし、喫煙に関しては解釈に注意が必要だ。今回のような一時点での横断解析では、先行研究においても、喫煙がストレスを軽減するというデータがある。だが、経時的に評価した縦断研究では喫煙がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことや、禁煙介入によりメンタルヘルスが改善されることがシステマティックレビューからも報告されている。
また、同研究は観察的および横断的なデザインであり、従業員のライフスタイル要因とメンタルヘルス問題との間の因果関係を立証することはできないため、この点は研究の限界として認識すべきとしている。
健康的なライフスタイルの支援で企業利益や社会貢献につながることに期待
今回の研究では、日本企業における従業員のライフスタイル要因(睡眠、運動、喫煙など)と、メンタルヘルス関連の欠勤率および離職率との関連が示された。同研究成果をもとに、企業は従業員の健康的なライフスタイルを支援するプログラム(睡眠改善セミナー、職場での運動促進プログラムなど)を積極的に導入することが期待される。これにより、従業員の生活習慣が改善されるだけでなく、メンタルヘルス関連の欠勤や離職を減少させる効果が期待できる。また、企業の健康経営の促進や従業員のモチベーションの向上にもつながる可能性がある。
「本研究を通じて、企業が従業員の健康的なライフスタイルを支援することは、職場のメンタルヘルス改善と離職率の低下に重要な役割を果たす可能性があることを示した。特に、睡眠の質や運動習慣がメンタルヘルスに与えるポジティブな影響は、企業の成長にも貢献できる可能性がある。この知見をもとに、企業と従業員がともに健康で持続可能な働き方を築き、企業の利益や社会貢献につながるよう、さらなる研究を進めていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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