健診で脂質異常を指摘されたにもかかわらず、医療機関を受診しない集団の特徴は?
筑波大学は10月8日、茨城県の医療情報の解析から、健診で脂質異常を指摘された後の医療機関受診率が非常に低い現状を明らかにし、未受診の可能性が高い集団には普段から医療機関を受診していないことや、他の健診異常がないなどの特徴があることを見出したと発表した。この研究は、同大医学医療系/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMA Journal」に掲載されている。
日本全体で推定220万人の患者がいるとされる脂質異常症は、放置すると心筋梗塞・脳梗塞・認知症などの疾患を発症する可能性が高まるため、健診で指摘された場合は医療機関を受診し、対処(生活指導や必要に応じて内服治療)することが重要だ。しかし、日本における企業の健康保険加入者を対象とした過去の報告では、健診で脂質異常を指摘された人のうち半年以内に医療機関を受診する人は15〜20%程度に留まっており、受診率の向上が課題となっている。
受診率向上に向けた取り組みにおいては、まず、どのような人々が医療機関を受診しにくいのか、その特徴を明らかにすることが重要だ。これまで糖尿病や高血圧を対象とした研究はあったが、脂質異常については検討されていなかった。そこで研究グループは今回、特定健診と医療保険レセプトのデータを用いて、健診で脂質異常を指摘されたにもかかわらず、医療機関を受診しない集団の特徴を解析した。
脂質異常症で受診勧奨された人のうち、180日以内に受診した人は18.1%
研究では、茨城県の国民健康保険加入者における特定健診・医療保険レセプトデータを用いた。2018年度に特定健診を受けた40〜74歳の20万2,369人のうち、脂質異常の受診勧奨基準(LDLコレステロール≧140mg/dL、中性脂肪≧300mg/dL、HDLコレステロール≦34mg/dLのいずれか)を満たした3万3,503人を把握した(健診前からすでに脂質異常症の治療や検査を受けていた者を除く)。
このうち180日以内に脂質異常症に関して医療機関を受診した人の割合は18.1%(6,052人)だった。また高LDLコレステロール血症を指摘された3万1,084人について異常値の程度別に医療機関を受診した割合をみたところ、LDLコレステロール値が140~160、160~180、180mg/dL以上の群でそれぞれ15.7%、18.6%、23.6%であり、異常の程度が大きいほど受診してはいたが、最も異常の程度が大きい群(180md/dL以上)でも約8割は受診していなかった。
若年者、男性、飲酒習慣が時々ある、自覚症状のない人など、受診しない人の特徴が判明
次に、医療機関の受診をアウトカムとした多変量ロジスティック回帰分析を用いて、医療機関の未受診に関連する要因を分析した。説明変数として、年齢・性別・飲酒頻度・喫煙の有無・健診場所(公共施設または医療機関)・自覚症状の有無・BMI・脂質以外の健診異常(血圧、血糖値、肝機能、尿蛋白、尿糖)の有無・前年度の健診結果(脂質異常あり、なし、健診受診なし)・健診前1年間の医療機関の受診頻度・薬の処方の有無(降圧薬、血糖降下薬、尿酸降下薬、抗うつ薬)・脂質異常の種類と程度・居住市町村の医療機関数を用いた。
その結果、若年者・男性・飲酒習慣が時々ある者・公共施設で健診を受けた者・自覚症状がない者・健診で他の異常を指摘されなかった者・健診前の医療機関受診が少なかった者・薬の処方(降圧薬、尿酸降下薬、抗うつ薬)がなかった者ほど、より医療機関を受診していなかった。
健診で判明した脂質異常の受診を促す働きかけに役立つことに期待
今回の研究で明らかになった未受診の可能性が高い人の特徴は、健診を担う市町村などの現場において受診勧奨方法を検討する際の参考となることが期待される。例えば、同研究で未受診の可能性が高いと明らかになった「健診前に医療機関を受診していなかった人」や、「健診を(医療機関ではなく)公共施設で受けた人」は普段、医療機関との接点があまりない可能性がある。このため、健診結果を送る際に居住地の近隣で受診できる医療機関のリストも案内するなどの工夫が考えられる。
「今後は、実際にどのように受診勧奨の方法を工夫すれば医療機関の未受診を減らすことができ、さらには心筋梗塞、脳梗塞、認知症などを発症する人を減らせるのかという点について、研究を進めていく必要がある」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 プレスリリース