胚・子宮内膜間相互作用、分子機構は未解明
東京大学医学部附属病院は10月9日、着床期子宮内膜の胚との接触面においてプロスタグランジン(PG)産生の主要酵素であるシクロオキシナーゼ(COX-1・COX-2)が異なるタイミングで働いていること、COX-1は子宮内膜への胚の接着、COX-2は子宮内膜の脱落膜化や子宮内膜への胚の進入に必要であることを、マウスモデルの研究で明らかにしたと発表した。この研究は、同院の藍川志津特任研究員、松尾光徳助教、同大大学院医学系研究科の大須賀穣教授、廣田泰教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI insight」に掲載されている。
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着床は、子宮内に入ってきた胚が子宮内膜と結合する最初のステップで、その後の妊娠維持・胎児発育を大きく左右する。着床過程は、胚が着床する位置を決定し(胚配置)、子宮内膜に接着する過程(胚接着)、さらにその後、胚の最外層に位置する栄養膜細胞が子宮内膜に入り込む過程(胚浸潤)を経て成立する。胚が子宮内膜上皮細胞層に接着すると、その周囲に存在する間質細胞層は多核の性質を持つ脱落膜と呼ばれる細胞へと分化し、その後、胚は上皮細胞層を通り抜け脱落膜層の中へ浸潤していく。着床のそれぞれのステップは正常な妊娠の成立に不可欠であり、胚・子宮内膜間相互作用は厳密に制御される必要があるが、その詳細な分子機構はいまだ解明されていない。
COX-2子宮特異的欠損マウスを作成、子宮で脱落膜化不全と胚浸潤異常を確認
排卵から分娩に至るまでの妊娠過程で重要な分子機構として、COX-PG経路が古くから知られている。一方、COX-1およびCOX-2が着床期子宮において具体的にどのように機能しているのか、その詳細は未解明だった。そこで今回研究グループは、子宮に限局したCOXの機能を探るため、COX-2子宮特異的欠損(COX-2uKO)マウス、さらにはCOX-1も欠損したCOX-1/COX-2二重欠損(DKO)マウスを作成し、その解析を通して着床期子宮における両酵素の機能を調べた。
その結果、COX-2uKOの産仔数は正常なコントロールのマウスの程度に減少し、COX-1/COX-2DKOでは産仔が得られない完全不妊となった。これらの不妊の原因を探るべく、次に胚接着前および胚浸潤期の子宮の解析を行った。すると、COX-2uKOは胚接着前子宮で異常を示さなかった一方、COX-1/COX-2DKOの子宮ではPG産生が減少し、胚配置異常と胚接着不全が生じていることがわかった。また、胚浸潤期において、COX-2uKOの子宮では脱落膜化不全と胚浸潤異常をきたすことがわかった。
PGE2/PGD2を補充、COX-2uKOにおける脱落膜化が改善
COXはPG産生を介して生理作用を発揮することから、重要なPG分子種を探るためLC-MS/MSによる定量解析を行った。その結果、COX-1/COX-2DKOでは胚接着前の子宮で、COX-2uKOでは胚浸潤期でPG産生が低下していた。さらに、COX-2uKOで低下していたPGE2・PGD2を補充した場合、COX-2uKOにおける脱落膜化が改善することがわかった。
COXやPG、その受容体を標的とした着床不全の診断・治療への臨床応用に期待
今回の研究で、着床期子宮において、胚配置・胚接着までの過程をCOX-1が制御し、脱落膜化や胚浸潤の過程をCOX-2が制御していることが明らかになりCOX-PGによる着床制御機構を新たに解明することができた。「COX欠損マウスで観察された胚接着不全、胚浸潤不全、胚配置異常は、ヒトの着床不全、不育症、前置胎盤などの胎盤位置異常の病因・病態と関連している可能性が考えられ、これらの疾患の病因・病態の解明につながることが期待される。さらに、COXやPG、その受容体を標的とした着床不全の診断・治療への臨床応用に向けて、今後研究を発展・継続していく予定だ」と、研究グループは述べている。
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