AIの医用画像生成で、統合失調症やアルツハイマー病の診断精度が向上する可能性
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は10月7日、生成AIを用いて、統合失調症患者のMRI画像を仮想的に生成するモデルを開発し、その有効性を検証したと発表した。この研究は、NCNP神経研究所疾病研究第七部の山口博行研究員および山下祐一室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」に掲載されている。
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生成AIは大きく進化しており、リアルで複雑な画像を生成するAIの可能性が広く知られるようになっている。これらの技術は、医用画像の分野でも注目されている。従来、医療データはプライバシーや法的制約のため利用が制限されていたが、生成AIを使えば、リアルな医用画像を生成し制限なく利用が可能だ。
例えば、胸部X線や脳MRIなどの医用画像を生成できることが示されてきた。AIが大量の画像を生成することで、データ増強が可能であり、統合失調症やアルツハイマー病の診断精度が向上する可能性があることが示されている。AIによる医用画像生成は現在、病気の診断や病変の検出に使われているが、今後はより複雑な病気の進行や、異なる病気間の関係をシミュレーションできる可能性がある。
統合失調症の脳画像を生成するのみならず、併存疾患脳画像も応用可能
今回の研究では、画像生成分野で実績のある「CycleGAN」という生成AI技術を応用して健常者の脳画像を統合失調症患者の脳画像に変換する独自の生成AIモデルを開発し、その応用可能性を探ることを目的とした。
開発したAIモデルは、統合失調症患者の脳に特徴的な構造変化を表現することに成功した。具体的には、健常者の脳MRI画像を統合失調症患者の脳MRI画像に変換し、変換後の画像に統合失調症患者に典型的に見られる脳領域の体積減少が確認されたことで、その有効性が示された。
同モデルを用いて統合失調症と自閉スペクトラム症の併存脳画像をシミュレーションしたところ、仮想的な併存例では海馬の体積減少が見られ、左中側頭回では体積増加が確認された。さらに、脳画像を繰り返し変換することで疾患の進行をシミュレーションした結果、変換の回数が増えるごとに徐々に脳体積の減少が広がり、側頭葉を中心とした広範な変化が見られた。
これらのシミュレーション実験を通じて、開発されたAIモデルが、統合失調症の脳構造変化を模倣した脳画像を生成できるだけでなく、仮想的な併存疾患脳画像の生成や疾患の進展のシミュレーションにも応用できる可能性が示された。
将来的に、より多くの因子を組み込んだモデルの開発に期待
この研究で開発した生成AIモデルは、統合失調症による脳構造の変化を表現できていると考えられ、脳構造の変化をシミュレートすることで、統合失調症の新しい診断法やサブタイプの発見、治療法の開発に貢献する可能性がある。
「将来的には疾患の罹病期間、服薬量、遺伝的要因など、脳構造に影響を与える可能性のある、より多くの因子を組み込んだモデルを開発することで、より包括的なシミュレーションが可能になることが期待できる」と、研究グループは述べている。
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