スピンラザ高用量レジメンの有効性と安全性を評価する第2/3相試験
米バイオジェンは10月9日、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するスピンラザ(R)(一般名:ヌシネルセン)の高用量レジメンの有効性と安全性を評価する第2/3相試験「DEVOTE試験」のパートBとCにおける詳細データを発表し、乳児型・乳児型以外のいずれのタイプのSMAにおいても、スピンラザ 治療未治療・既治療に関わらず有益な結果が示されたと発表した。このデータは、プラハで開催された「世界筋学会(World Muscle Society: WMS)2024年大会」で発表された。
スピンラザはSMAの乳幼児、小児および成人の治療薬として世界71か国以上で承認されている。SMAの基盤となる治療として、全世界で1万4,000人以上がスピンラザの治療を受けている。
スピンラザは体内で生成される完全長Survival Motor Neuron(SMN)タンパク質の量を継続的に増やすことで、運動ニューロン喪失の根本原因を標的にするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)。SMAの発症部位に到達できるよう、スピンラザは運動ニューロンが存在する中枢神経系に直接投与される。
乳幼児期発症の未治療小児コホート、CHOP-INTEND測定による運動機能が有意に改善
DEVOTE試験は3つのパートで構成されており、さまざまな年齢や異なるタイプのSMAを有する145人の参加者が登録された。今回の試験でのスピンラザの高用量投与レジメンは、承認済みのスピンラザ投与レジメンと比較して、より迅速な初期投与レジメン(50mgを14日間隔で2回投与)と、より高用量の維持投与レジメン(4か月ごとに28mg投与)で構成されている。
パートBの中心となるコホート(n=75)は、乳幼児期にSMAを発症した未治療の小児が対象だった。スピンラザの高用量レジメンによる治療は、臨床第3相ENDEAR試験参加者の同条件のシャム対照群(非治療群)と比較して、フィラデルフィア子ども病院‐神経筋疾患乳幼児テスト(CHOP-INTEND)の変化で測定される運動機能を有意に改善し、主要評価項目を達成した(+15.1 vs -11.1、P<0.0001)。
副次評価でも、高用量レジメンが承認済み12mgレジメンより一貫して優位な傾向示す
高用量レジメンとシャム群との比較に加えて、群間に有意な差を検出するには十分な検出力はないものの、承認済みの12mgレジメンとの比較分析も実施された。比較的小さな試験規模にもかかわらず、副次評価では高用量レジメンがシャム群に対し全ての項目において、また12mgレジメンに対してもほぼ全ての項目において一貫して優位な傾向を示した。
詳細は下記の通り。
神経変性のマーカーである血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)に関し、ベースラインから183日目までに高用量レジメンは94%の減少を示したのに対し、シャム対照群では30%の減少だった(p<0.0001)。さらに高用量レジメンではより速やかなNfLの減少が示され、12mgレジメンと比較して64日目においてより大きな減少が示された(p=0.0050)。
302日目において、高用量レジメンはCHOP-INTENDで19.6ポイントの改善を示した一方、12mgレジメンでは21.6ポイントの改善を示した(最小二乗平均差:-1.94、p=0.8484)。また、302日目において、高用量レジメンはハマースミス乳幼児神経学的検査セクション2(HINE-2)において、12mg投与レジメンと比較して平均値の改善を示した(最小二乗平均差:0.58、p=0.1734)。
高用量レジメンは死亡または永続的人工呼吸器装着に至るリスクを、シャム群と比較して67.8%減少させ(HR:0.322、名目上のp値=0.0006)、12mgレジメンと比較して29.9%減少させた(HR:0.701、p=0.2775)。同様の傾向は全生存率や、入院や重篤な呼吸障害といった他の重要イベントにおいても示された。
パートBの乳児型以外のコホートにおいては、高用量レジメンの参加者(n=16)は、運動機能評価において数値的により大きな改善を達成した。例えば拡大ハマースミス運動機能評価スケール(HFMSE)や、上肢モジュール改訂版(RULM)において、302日目でのDEVOTE試験の12mgレジメン群(n=8)、あるいはCHERISH試験における279日目での12mg投与群(n=32)およびシャム対照群(n=16)と比較して数値的により高い改善を達成した。
12mgレジメン治療後の4~65歳パート、高用量移行後に運動機能が改善
DEVOTE試験のパートC(n=40)からの初期結果も発表された。このパートでは、4歳から65歳の幅広い被験者が、承認済みの12mgレジメンで中央値3.9年投与された後、高用量レジメン(50mgの単回投与後、28mg維持投与レジメン)に移行した。移行後に運動機能が改善し、ベースラインから302日目の平均変化量はHFMSEで1.8ポイント、RULMで1.2ポイントだった。
高用量レジメン、承認済みレジメンと同様の安全性プロファイル
DEVOTE試験のすべてのパートにおいて、高用量レジメンの忍容性は概ね良好であり、承認済みの12mgレジメンと同様の安全性プロファイルを示した。12mgレジメンで最も高頻度に発現した有害事象は、呼吸器感染、発熱、便秘、頭痛、嘔吐および背部痛だった。DEVOTE試験における有害事象の発現頻度は、スピンラザ投与群間で同程度だった。治験中止および死亡に至った有害事象はパートBの未治療コホートのみで認められ、有害事象の件数は50/28mg投与群、12mg投与群および対応するシャム群でそれぞれ20%(10件)、24%(6件)および55%(11件)だった。
高用量50/28mgレジメンを世界各国に承認申請予定
スピンラザは現在、71か国以上において承認用量12mgで使用されている。発表されたデータは、検証中の高用量レジメンが、SMAの既存の治療選択肢でも依然満たされない医療ニーズに応える可能性を示唆している。同社は、スピンラザの高用量50/28mgレジメンに関する承認申請を世界各国の規制当局に提出する予定である。
ジョンズ・ホプキンス・メディスンの筋ジストロフィー協会クリニックの共同ディレクターであるトーマス・クロウフォード医学博士は、「際立っていたのは、高用量レジメンはニューロフィラメントをより速やかに低下させ、神経変性をより迅速に抑制していることが示唆されたことである。これはSMAの方々にとって非常に重要であると考える。経過を追うことで、高用量レジメンのベネフィットを示すエビデンスがSMAのタイプによらず認められるだろう。投与量が大きく増やされているのにもかかわらず、高用量レジメンは承認済みの12mgレジメンと一貫した安全性プロファイルを示した」と述べている。
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・バイオジェン プレスリリース