エリア内に現れたものに正しく視線を向ける能力を支える仕組みをサルの脳で解明
東京都医学総合研究所は10月4日、状況に応じて視野の中で注目すべき部分を予測し、そのエリアに何かが現れたときに素早く対応することを可能とする脳の仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所脳機能再建プロジェクトの横山修主任研究員と西村幸男プロジェクトリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
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自動車の運転中に注意が散漫になっていて、突然道路にボールが飛び出してきてハッとする経験などがある。一方で、集中して運転しているときは、進行方向に目を向けながらも、交差点や歩道、合流する路地など、歩行者や自転車が飛び出してくる可能性の高い部分を気にかけることができる。つまり、次に何か重要なものが現れる可能性のあるエリアを予測しておくことで、不要なものに気を取られず、そのエリア内に何かが現れたときに素早く対応できる。
研究グループは今回、行動中のサルの脳を調べ、視野の中で注目すべき部分を予測し準備することによって、そのエリア外に現れたものではなく、エリア内に現れたものに正しく視線を向ける能力を支えている仕組みを、脳の前頭葉の正中付近にある「補足眼野」という領域の神経細胞の働きから発見した。
補足眼野ニューロンの予測・準備のおかげで、予測エリア内のものに強く反応
具体的には、サルの脳の前頭葉にある補足眼野の神経細胞(補足眼野ニューロン)は、それぞれ異なる視野内位置(受容野)の情報を処理するが、その補足眼野ニューロンの活動が状況に応じて視野内で注目すべき部分を予測し、準備していることを発見した。
実際に何かが受容野に現れると、補足眼野ニューロンの受容野が視野内の予測エリアに含まれる場合、含まれない場合に比べ、準備のおかげで活動がさらに高まり、予測したエリア内のものにより強く反応できることがわかった。
補足眼野が「注目すべき視覚エリア」の予測・準備の役割を担っていると判明
また、予測と準備のタイミングで補足眼野に微弱な電流を流して補足眼野ニューロンの活動を乱すと、そのエリア外に現れたものに誤って視線を向けることが増加した。この結果から、補足眼野が注目すべき視覚エリアをあらかじめ予測し、準備する役割を担っていることが明らかになった。
視野を広く保ち行動を素早く起こす能力を向上させる新規トレーニング法の開発に期待
今回の研究で明らかにされた「視野の中で注目すべきエリアを予測して次の行動を準備することを制御している脳領域はどこなのか?どのように制御しているのか?」といった脳のメカニズムは、これまで十分に解明されていなかった。同研究では、思考などの認知機能に関わる前頭葉に位置する補足眼野がその役割を果たしていることが発見された。この予測と準備に重要な信号は、補足眼野が前頭前野や頭頂葉、大脳基底核などの他の脳領域と連携することによって作られ、脳の後方にある視覚野に伝達されることで、視覚情報処理に影響を与えていると予想される。そのような脳メカニズムの全体像を脳領域間のネットワークの観点から明らかにしていくことが今後の課題となる。
「今後さらに研究を進めることで、乗り物の運転やスポーツにおいて視野を広く保ち、行動を素早く起こす能力を向上させる新たなトレーニング法の開発につながる可能性がある。また、疲労や加齢によって、この能力が低下する現象の生理学的理解と、それに基づく改善法の開発へとつながることが期待できる」と、研究グループは述べている。
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・東京都医学総合研究所 プレスリリース