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パーキンソン病などで「レム睡眠行動障害」が起こる原因を解明-筑波大ほか

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2024年10月10日 AM09:10

レム睡眠の消失が脳にもたらす作用は不明だった

筑波大学は10月4日、夢を盛んに見ることで知られる「レム睡眠」を誘導する神経回路を解明するとともに、この神経回路を構成する神経細胞の異常によって、レム睡眠中に見ている夢の通りに体が動く「レム睡眠行動障害」が引き起こされることを突き止めたと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の林悠客員教授(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授)と、大阪大学大学院医学系研究科神経内科学の望月秀樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトは寝ている間、ノンレム睡眠とレム睡眠という大きく異なる2つのステージを行き来する。レム睡眠は「急速眼球運動(rapid eye movement;REM)が起こる」「大脳皮質が活性化し夢を見る」「骨格筋の筋活動が低下して脱力する」「海馬の神経活動により特徴的な脳波(シータ波)が出現する」といった特徴がある。しかし、このような独特な生理状態が何のためにあるのか、また、どのような仕組みで生じるのかは未解明だった。

また、レム睡眠の異常は、さまざまな疾患や不調の前兆としても知られ、例えばレム睡眠が少ないと、認知症発症や循環器疾患による死亡のリスクが高まる。特に近年、パーキンソン病の前駆症状として注目されているのが、レム睡眠中に夢の内容通りに体が動いたり声が出たりしてしまい、本人や家族が負傷する原因にもなり得るレム睡眠行動障害だ。これを発症すると、その後10年以内にパーキンソン病などのαシヌクレイノパシーを発症する確率が非常に高くなる。パーキンソン病では多くの患者でレム睡眠そのものが失われていくが、その原因やレム睡眠の消失が脳にもたらす作用は不明だった。

レム睡眠を強力に誘導する神経回路を同定、夢を見ても体が動かないメカニズム示唆

研究グループはまず、マウスを用いた実験により、脳の橋(きょう)と延髄と呼ばれる部位においてそれぞれ強力にレム睡眠を誘導する神経細胞を同定するとともに、これら2種類の神経細胞が互いに投射し合うループ回路を形成することを発見した。

また、2種類の神経細胞のうち、延髄にあるレム睡眠を誘導する神経細胞は、急速眼球運動を担う脳領域(動眼神経核)、大脳皮質の活性化を担う脳領域(視床正中核)、海馬シータ波の生成を担う脳領域(内側中隔核)へと神経接続を形成していることを確認。橋にあるレム睡眠を誘導する神経細胞は、脊髄を介して骨格筋を制御する運動神経につながる回路を形成していた。レム睡眠ではこれらの回路が働くことで、大脳皮質が活発に活動して夢を見る一方で、骨格筋を制御する神経細胞への抑制性の信号がいくことによって、筋肉の脱力が保たれるため、夢を見ていても体は動かないというメカニズムが示唆された。実際に、マウスの橋のレム睡眠誘導細胞のみを失わせると、レム睡眠中にも体が動くようになり、レム睡眠の量そのものも大幅に減少したという。

パーキンソン病に伴うレム睡眠行動障害、橋のレム睡眠誘導神経細胞の減少が原因

続いて、ヒトの死後脳についても調べたところ、ヒトにもマウスと同様にレム睡眠誘導神経細胞があることがわかった。また、レム睡眠行動障害とパーキンソン病を併発していた患者の死後脳を調べたところ、橋のレム睡眠誘導神経細胞の数が激減していた。さらに、レム睡眠誘導神経細胞は、パーキンソン病の原因物質として知られる凝集αシヌクレインという異常タンパク質を蓄積しやすいことも判明した。

これらのことから、パーキンソン病に伴うレム睡眠行動障害などのレム睡眠異常の原因が、橋のレム睡眠誘導神経細胞の減少であることが明らかになった。

睡眠障害および関連疾患の新たな予防・治療法開発への貢献に期待

本研究成果により、パーキンソン病の発症メカニズムの解明や、レム睡眠の質・量の低下に注目した予防・治療法への応用のほか、夢を見る仕組みや意義の理解が進むと期待される。また、今回同定されたレム睡眠を誘導する神経回路が具体的にどのように脳機能に影響を与えるのかを調べることで、レム睡眠の意義の解明が大きく前進すると考えられる。「今回の発見は、睡眠障害および関連疾患の新たな予防・治療法の開発に役立つと期待される」と、研究グループは述べている。

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